TripAdvisor(トリップアドバイザー)のレイオフ
2020年1月22日、TripAdvisor が約200人のレイオフを行っていると Bloomberg が報道しました。同社は2019年9月末時点で3,800人を超える社員が在籍していたということなので、削減人数は全体の約5%に達します。なかなか厳しい判断です。
リンク:TripAdvisor Cuts Hundreds of Jobs After Google Competition Bites - Bloomberg
TripAdvisor は「強い収益性を維持するために、我々の事業の特定の部分の費用を削減および再配分する必要がある」とコメントしていますが、この「強い収益性」を妨げている要因の一つとして Google を名指しで挙げています。
TripAdvisor は大規模かつモダンな仕組みで Paid Search を回している世界的にも指折りの企業ですが、彼らをもってしても広告費の削減は今後も容易ではなく、集客の源泉である検索結果(SERP)上での競争環境の変化により、Google に支払う広告費が増大し収益を圧迫していることが伺えます。
2019年第3四半期決算もかなり厳しい結果に終わっており、今後の持続的な成長のためにも、有力な事業への資源の再配分が急務だったはずです。
旅行ニーズへの対応強化を進めるGoogle
Google は以前からあるフライト検索をはじめとして、2018年にホテル検索の強化(デスクトップ開始)、2019年には旅行関係の機能を統合した「Google Travel」を始めるなど、ここ数年矢継ぎ早に旅行関係の機能を強化してきています。
リンク:Google Travel
また、昨今はGoogleマップ上でホテルやレストランのほかにもさまざまな観光地の口コミを増やす施策を行っていますし、ユニバーサル検索には旅行関係のフィードが埋め込まれ、重要な検索クエリのATF(ファーストビュー)にはほぼ確実に広告が表示されるようになっています。特化型の広告である「Hotel Ads」も2015年から開始しています。
TripAdvisor のような広義の Online Travel Agency(OTA) は旅行者への情報提供と宿泊施設への送客を両立することでビジネスを行っていますが、Google が旅行関係の機能を強化すればするほど、OTAがカバーする領域との境目は曖昧になります。OTAがトラフィックのある程度以上を Google に依存しているにもかかわらず、です。
SEO で有名な Rand Fishkin は Less than Half of Google Searches Now Result in a Click という記事の中で、
Google was sending a huge portion of search clicks to their own properties (~6% of queries and ~12% of clicks). Those properties include YouTube, Maps, Android, Google’s blog, subdomains of Google.com, and a dozen or so others
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Googleは検索クリックの大部分を自社プロパティに送っていた(クエリの6%およびクリックの12%)。これには YouTube、Maps、Android、Googleのブログ、Googleのサブドメインを含む多くのサイトが該当する
clicks that bring searchers to a Google-owned site keep rising.
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Googleが自社プロパティに誘導するクリックの数は、増加し続けている。
と指摘していますが、旅行サービスの機能強化を通じて Google が自社プロパティの誘導率を高めていくことは、OTA の役割の希薄化を招き、ひいてはトラフィックソースの先細りを意味します。
Googleの変化と、広告費の上昇と
オーガニック経由のトラフィックがコントロールできなくなる、あるいは減少傾向にあるということは、逆説的に Google に多くの広告費を支払う必要がでてくる、ということです。
実際、Googleが、検索結果内の自社プロパティの比率を高めていった流れと反比例するように、OTA の広告費が徐々に上昇していったと類推できるデータがあります。
以下は(少し古いですが)2017年の記事 Top 20 in US Paid and Organic Search ですが、記事中に
Five years ago, there were no travel sites in the top 20 paid search list. Today, there’s five:
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5年前(2012年)には(広告表示回数の)上位20サイトに旅行サイトは存在しなかったが、現在は5つある
とあるように、旅行業界がGoogle検索でカバーする検索クエリが大幅に増え、それにともなって支払うトラフィック獲得費用(TAC)が年々引き上がっていたことを指摘しています。
なお、ここでいう5つの旅行サイトとは、Expedia.com、Kayak.com、Cheapoair.com、TripAdvisor.com、Booking.com を指します。いずれも旅行系サイトでは世界的な大手企業(の運営するサイト)ですが、短期間にTOP20にランクインするほど、旅行系の検索クエリやインプレッションで競合性が高まっていることが分かります。旅行業界は比較的クリック単価の安い業界ですが、それでも広告単価の上昇は免れないでしょう。
これらのサイトは送客や予約に応じた手数料モデルが基本ですので、集客のための広告費は売上原価に近い性質のコストになり、広告費の上昇はそのまま収益の悪化につながります。売上に直結するため一般企業のような広告宣伝費的な増減コントロールが難しく、単価が抑えられないとどうしても苦しい状況になってしまいます。
このように、TripAdvisor がレイオフの要因に Google を名指しで挙げることの背景には、検索の巨人が集客のための最重要のソースである一方で、自社の収益性を脅かす競合の一部でもあったことを物語っています。突破のカギの一つはソーシャルなのだと思いますが、規模を考えると収益性で検索を上回ることは難しいでしょう。
旅行業界と同様のケースは他の分野でも当てはまるはずです。Walled Garden の壁が高くなる中でサードパーティはどのように経営の舵取りをしていくべきなのか、非常に示唆的なニュースだと思います。
※なお、もっとも大きな業界である小売(リテール)だけは Amazon の無双により別の状況が生まれていますので、どこかでまた記事にしたいと思います!
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