近未来のトレンドは誰しも注目するところですが、流行するキーワードと実際のビジネスとのあいだには、どうしても時間的なギャップがあるものです。
トレンドはトレンドとして追いつつ、世の中の広告主や代理店が実際にはどこにお金を使っていくつもりなのかを押さえておくのは決して無駄ではないと思います。
というわけで、すでに新しい年がはじまってしばらく経ちますが、2018年の終わりごろに出ていたいくつかの発表をもとに、2019年のオンライン広告支出の実際的な動きをかんたんに確認していきます。
およそ3分の2の関係者が、運用型広告の予算が増える(増えた)と回答
PPC Hero を主宰する Hanapin Marketing は、400社以上のマーケターや広告主・代理店へのアンケートを集計したレポート「The State of PPC 2018 - 2019」を、2018年11月に発表しています。
参考:Where Marketers Are Spending Their Digital Dollars in 2019 | PPC Hero
このレポートの冒頭のメッセージは以下の3つ。
・マーケターの62%が、向こう12ヶ月の間に運用型広告(※1)の予算を引き上げると回答。予算が変わらないという回答は35%
・広告主の68%が、過去12ヶ月の間に運用型広告の予算が増えたと回答。うち18%は「大幅に増えた」
・代理店の67%が、顧客の予算が12ヶ月前よりも増えたと回答。予算が減ったと回答した代理店は3%
(※1) レポート上で使われている言葉は「PPC」で、意味は「Pay Per Click(クリック課金)の広告」となりますが、前提は「(Includes aggregate of search, social, display, programmatic, etc」とあるため、本記事では日本語でいうところの「運用型広告」と近しい定義と判断し、まとめて「運用型広告」と表記しています。個人的には「programmaticなんてほとんどがインプレッション課金やんけ!」とは思いますが…
つまるところ(さまざまなトレンドはありつつも)、実務レベルでは大半が運用型広告が最重要だと考えているということです。
もちろん、いわゆるダイレクトマーケティングが得意な代理店が集計したレポートだというバイアスを考慮する必要はありますが、集計サンプルの業種が広範にわたっていることや、IABの広告費内訳を見ても、近年は全体の3分の2がパフォーマンスモデル(Performance-based pricing)だという事実(※2)をふまえると、多少の集計バイアスが仮にあったとしても、出稿側の傾向をある程度カバーしていると考えて差し支えないと思います。
(※2) 2017年度のIAB Internet Advertising Revenue Reportでは、パフォーマンスモデル(Performance-based pricing)が全支出の65%を占めており、それまでも同様の傾向を示しています。
Googleは引き続きトップランナー。Facebookスキャンダルの影響は限定的
上記は「向こう12ヶ月内に予算が増えるプラットフォームは」という設問(複数可)の回答を集計した表です。Google は2017年から3ポイント増加した78%と、トップランナーの位置を堅守しています。もはや当たり前過ぎて大して言及されないという有様です。
注目はスキャンダルに見舞われた Facebook を広告出稿側がどう受け止めているのか、というところですが、ユーザー側の強い反応と比して、財布の紐にはそれほど影響が出ていないという結果のようです。前年に次いで、2番目に出稿意欲の高いプラットフォームになっています。
予算は増えていく一方で、スキャンダルの影響は広告出稿側にとっては取りうる選択肢の減少という影響を及ぼしています。広告プラットフォームとして Facebook を捉えた場合、高いオークションプレッシャーを避け、かつブランドセーフティとパフォーマンスを両立させるための手段が事実上 Instagram に限られる中で、実際の CPC は(今は安い状態が続いているものの)徐々に高くなっていくことが予想されます。
なお、Facebook、Instagram、YouTube といったソーシャルプラットフォームは、動画広告による追い風を受けています。特に2018年は YouTube や Instagram でダイレクトレスポンスに最適化されたフォーマットが登場したことからも、これまで出稿をためらっていた広告主の意識がポジティブになっているようです。
Amazonは第三の勢力へ。2018年に引き続き台風の目か
先ほどのグラフでは Amazon が増加すると回答した企業は全体の17%にとどまっていますが、調査サンプルのうち小売業は5%(代理店で実施している分は不明)に過ぎないことを考えると、むしろ17%もいることがプラットフォームとしての勢いを物語っています。
実際、Pivotal Research が2019年1月に発表したレポートでは、Amazon の広告事業は2023年までに380億ドルに達すると予想されています。この予測が仮に当たったとすると、広告事業は Amazon にとってこれまでのどのビジネスよりも早く成長する大きな柱になります。
参考:Pivotal Forecasts Amazon Ad Revenue To Reach $38 Billion | AdExchanger
規模と成長率、対象セグメントの違いなどを考慮すると、Amazonの広告事業の収入が向こう5年間で Google や Facebook を上回るわけではありませんが、いわゆる運用型を中心としたデジタル広告では、独立した第三の勢力となることはほぼ間違いないと思われます。管理画面や使い勝手はまだまだ不安定ですが、改善のスピードもまた早くなっていることを、実際に運用したことがある人は感じ取っているはずです。
また、広告事業は(あくまで会計上では)Google や Facebook にとって唯一に近いビジネスモデルである一方で、Amazonにとっては幾つかある柱の1つに過ぎません。ビジネス全体でのポートフォリオや採れる戦略の幅が広いことを考えると、Pivotal Research の予測がコンサバティブになる可能性すらあります。
フォーマットとしては、引き続きテキスト広告に投資
なお、プラットフォーム別ではなく、広告のフォーマット別に見ていくと、少し違う景色が見えてきます。
上記は、フォーマット別に見た場合に投資額が増えたのか減ったのかを、2017年と2018年とで比較したチャートです。
ソーシャルやリマーケティングはいいとして、投資額が増えたという回答が最も多かったのがテキスト広告です。近年さまざまな広告フォーマットが出てきていますが、テキスト広告の人気は衰えず、むしろさらに上がっている印象です。
2016年以降の拡張テキスト広告の本番化や動的検索広告の隆盛、2018年のレスポンシブ検索広告(とそれに併せた新しい拡張テキスト広告)など、機械学習アルゴリズムを最大限に活用したフォーマットへの進化によって、検索連動型に代表されるテキスト広告の可能性が更に広がっていると見ることができるでしょう。
実際、回答者の実に7割(複数回答なし)が、「テキスト広告が最も効果的なフォーマットである」と答えています。
2019年初頭の現時点では Google だけの話になりますが、今後はレスポンシブ検索広告に象徴される「テキストとクエリ(≒インテント)の動的なマッチング」がこれまでとは比較にならない割合と精度で提供されるようになるでしょう。その際に、クリエイティブが固定されて変数が少ないままのフォーマットは相対的に難しくなってくるはずです。
構造化データやフィードといった「デジタル・アセット」を組み合わせていくための創造性とディレクションの質によって、広告運用はこれまでとは違った専門性を求められることになります。その専門性を発揮できる規模と精度のあるプラットフォームにお金が流れるようになるでしょうし(なので悔しいが Google は引き続き強い)、専門性を拡げて変化させられる個や組織に仕事が集まってくるのだと思います。2019年もたくさんの変化が待っていそうで楽しみです。
コメント