DBMで音声広告が正式に開始
2018年5月30日、Google は自身の DSP である DoubleClick Bid Manager(DBM) で、すべての広告主が音声広告(Audio Ads)を出稿できるようになったと発表しました。参考:DoubleClick Advertiser Blog: Digital Audio Ads come to DoubleClick
既に2017年にはパイロットユーザーでの成果が公表されており、ブランド集客のコンサルティングを行う MightyHive が、消費財ブランドのキャンペーンで DBM の音声広告を利用して、750万回以上の広告表示(音声広告なので≒再生)、ブラウザやアプリを通じた7,500回以上のクリック(CTRは0.11%)、95%以上の広告完了率(再生完了率)を得ていたとのこと。
その消費財ブランドのキャンペーンは購入目的ではなかったため、音声広告上でのキャンペーン認知のほか、誘導先のウェブサイトでの店舗情報表示(モノが売っている店舗の確認)を目的として広告の設計をしたそうです。
参考:MightyHive leads the way with Audio Ads testing - DoubleClick
配信先は大手ストリーミングサービス
DBM は、2018年時点で最大手といえるストリーミングサービスを配信先として確保しています。自身のインベントリである「Google Playミュージック」をはじめとして、音楽サブスクリプションでは最大規模を誇る「Spotify」、耳の早い音楽リスナーの多い「SoundCloud」、世界最大規模のポッドキャストサービスである「TuneIn」が広告の配信対象になっています。
※ちなみに最近発表された「YouTube Music」は対象から外れているようです。AdWordsとカニバリゼーションがあるからかもしれません
これまでの音声広告は、電波に乗ったラジオ放送ではいわゆる純広告として扱われ、近年急速に普及したIPサイマルラジオ(インターネットラジオ)でも、媒体として用意される広告枠の販売(直接買い付け)が主流で、昨今の運用型広告で主流になっているマーケットプレイスを通じたプログラマティック配信はなかなか進んでいませんでした。
今回の DBM の発表により、広告主は(少なくともインターネット上では)音声広告をデジタルのキャンペーンとして1か所で統合することができ、これまでの予約型やインプレッション保証型とは違い、データを利用してさまざまな時間、タイミングでユーザーにアプローチすることができるようになります。
ストリーミングサービスの拡大
Statistaによれば、2016年は全世界で11億人がストリーミングサービスを利用し、2022年までの6年間でストリーミングを利用するユーザーは30%増の14億人まで増加すると予想されています。(ダウンロード利用は横ばいの3.7億人)radiko.jpの登場によってラジオの聴取が底を打ち、2017年にはラジコプレミアム会員数も30万人を超え引き続き伸び続けていますし、Spotify や Apple Music が現在の規模になる前までは、YouTubeのプレイリストをストリーミングサービスのように使うユーザーが多かった(帯域使いすぎですが…)ように、音声のみでメディアに関与するというニーズは一定量存在します。
昨今はどんなサービスでも「可処分時間の奪い合い」という表現がされますが、五感のうち聴覚のみで成立する音声メディアは、可処分時間の軸でいえば他の行動と共存しやすいとされます。仕事中に音楽を聞く、ラジオを流す、通勤途中の電車や車の中で、家に帰ってから読書や家事の合間に流す、などのシーンですね。スマートスピーカーの登場も契機となって、ストリーミング系のサービスはユーザーの普段の生活に沿いやすいメディアとして追い風が吹いているといえるのだと思います。
音声広告の可能性
ストリーミングサービスの拡大は、音声広告にとっても追い風です。メディアを事業として成立させるための広告配信は、サブスクリプション課金のトレードオフになるため、課金の設計としては理に適っています。そして、広告が端末の画面から離れていても成立するという設計は、ブランドがユーザーと関与したいという目的を果たすには比較的冴えたやり方であり、相性がよいと言えます。
画面占有率ではなく、「時間を共存する」という考え方の音声広告は、多くの(視覚的な)広告と競合せず、フリークエンシーを上げて認知を高めていくという目的のブランドキャンペーンでは、優先順位の高い方法になると考えられます。
ストリーミングサービスを利用するユーザーが増えれば増えるほど、音声広告にも追い風が吹くことになるでしょう。動画の広告利用がスタンダードになるに従い、TVCMの流用ではなく動画キャンペーン専用の素材が制作されるようになってきたように、ストリーミングサービスの聴取者が増え、広告配信の環境が整ってくれば、広告主が音声広告用の素材制作に本腰を入れるようになるかもしれません。
そういった意味で、素材を統合管理できる DBM の音声広告の開始は、運用型の音声広告の夜明けを象徴する出来事だと言えるのではないでしょうか。古くて新しい音声広告は、ストリーミングサービスの普及によって入口と出口が揃いました。今後の展開が楽しみです!
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