モバイルファースト、デスクトップパッシング
例年、年末年始はその年のトレンドを予測する記事が増えます。2018年も、短期的な未来・方向性を予測する記事がたくさん出ました。個人的には、年始にいくつか読んだ中では、以下の記事が参考になりました。(記事自体は2017年12月7日なので、寝かせすぎですが…)
リンク:25 Experts on the Big PPC Trends You Need to Know in 2018
記事自体は25人の識者へのインタビューをただひたすらまとめただけのものですが、それらみんなの意見を聞いて、自分なりの視点があぶり出される感じが Thought-provoking で楽しかったです。人間一人の想像力など限界がありますので、たくさんの意見をざっと聞く(見る)のはたまには必要だなと思いました。
インタビューから浮かび上がるキーワードは、以下のようなものです。
・機械学習と自動化は引き続きトレンド
・音声入力の一般化
・ホームメディアの成長と用途開発
・ブランドセーフティによるRPMへの影響
・オーディエンスデータの活用と発展
・オーディエンスデータの制限(ITPやGDPRなど)
・ショッピング広告の収益性の低下とAMSの台頭
・フィード広告の発展(ローカル在庫や広告カスタマイザなど)
・データドリブンアトリビューションの発展
・メッセンジャー・チャットボットの拡張
・動画のディレクションツール→動画広告の発展
・BIツールやダッシュボードの普及
これらはBIツールを除くとほぼすべてモバイルの世界で起きていることで、個人的な印象としては、モバイルファーストというより、デスクトップパッシングという印象を持ちました。携帯を優先するという意思の話ではなく、PCが事実上無視されているということです。(このあたりは、別の記事で書きたいと思います)
予測に対する、IABの定点観測
未来を予測する記事はたくさん出るものですが、前年に見立てた予測に対して現実はどうだったのかを振り返る記事は、その予測ほど多くはありません。予測の方が楽しいですからね!そこで、予測を現実がどうやって追認してきているのか、それを確かめられるのが定点観測レポートです。 2017年末に、米IAB(Interactive Advertising Bureau) が PwC と共同で毎四半期発表している米インターネット広告に関する調査「Internet Advertising Revenue Report 」の、2017年上半期版が発表されています。
※以下のリンクから、過去のレポートも含めてダウンロードができます
IAB Internet Advertising Revenue Report Conducted by PricewaterhouseCoopers (PWC)
ここ数年、成長の牽引役として登場するキーワードは常に「モバイル」と「ソーシャル」でした。IABの分類に倣えば、最も市場を牽引しているのは「検索」になるはずですが、あまりにも当たり前過ぎるのと、下敷きとなっているモバイルの衝撃が強すぎて(モバイルがなかったらマイナス成長!)レポート内でのカテゴリ定義と現実の折り合いが難しいのかもしれません。
ちなみに2017年は、前上半期対比で22.6%増ということでした。これは2011年以来最大の成長率のようで、今や10兆円に届く規模になってからのレコードブレイクなのがすごいですね。
動画広告の躍進
このレポートでは、モバイルとソーシャルを燃料にした動画広告の大幅な躍進がハイライトの一つとして紹介されています。2017年には、IAB UK が既に動画広告がバナー広告を越えたというリリースを出していましたが、そのドライバーは間違いなくモバイルとソーシャルでした。
特に、モバイルとソーシャルが掛け合わさったソーシャルインフィードのパワーはものすごく、デスクトップ時代の主要フォーマットであるプレロール/ポストロール広告をあっさりと追い抜く勢いで成長しているようです。2000年代後半からずっと"動画広告元年"が続いていましたが、動画がソーシャルという鉱脈を見つけていたことが、数字によっても証明されたかたちですね。
個人的には、プレロールは理論的には広告在庫がほぼ無限にあるはずですが、配信量とユーザ離脱がトレードオフの関係にあるので無理が利かないのではないかと思います。枠が規定するクリエイティブの文脈も違いますので、広告主側の工夫でプレロールに比べて正の相関をつくりやすいネイティブフォーマットにまくられてしまいます。
そう考えると、これからは広義にも狭義にもクリエイティブの力が大事だと、改めて感じます。
セルフサービスとローカル
個人的に面白かったのは、IABトップの Randall Rothenberg の以下の発言です。“Being nimble and accessible are hallmarks of the new digital economy. Now, anyone with a good idea and a credit card can capture the attention of their
customers directly ”
「新しいデジタル経済の特徴は、軽快でアクセスしやすいことです。冴えたアイデアとクレジットカードを持っている人は、直接的に顧客の関心を引き付けることが可能になります。」
ある意味「そんな今更な!」と思えるこの発言も、モバイルの発展と相俟って、大規模な広告主と代理店が主導してきた広告業界が、セルフサービスやローカル・中小企業のボトムアップによって変容してきていることを端的に示唆しています。
IABは、この発言と連動するように、 Borrell Associates と共同で「The Local/SMB Ad Spend Hypothesis」というシンプルなアンケート調査も同時に出しており、広告主の裾野が広がりが広告の経済圏や売上構成を大きく変化させていると、公式な見解として発表しています。
AdWordsが2000年代前半に「セルフサーブ」「掲載保証なし」「品質による時価と表示機会」といった、これまでとはまったく違った(そして今では当たり前になった)システムで切り崩していったこれまでの広告ビジネスが、スマートフォンの普及とFacebookのようなソーシャルの台頭によってドーンと一気に切り替わっていく様が、このアンケート結果からも透けて見えるようです。
IABトップのRandall Rothenberg は、プレスリリースでこうも言っています。
“We should no longer think of the internet as mobile versus desktop,”
インターネットを、「モバイル対デスクトップ」と捉えるのはもう止めるべきだろう
デバイスと一人ひとりの行動がもう完全に切り替わっていて、それが広告ビジネスも入れ替えつつある、ということだと思います。
振り返って2018年はどのような年だったのか、それは未来にならないと分かりませんが、渦中でもがきながら楽しむプレイヤーの一人として(そして時折それを発信する零細パブリッシャーとして^^)、今年もがんばっていきたいと思います!
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