代理店変更を繰り返すデメリットは?
リスティング広告に代表される運用型広告は、短期的なキャンペーンではなく、企業の集客チャネルの一つとして比較的長い期間改善を繰り返しながら利用されることが多いと思います。
運用が行われるということは、アカウントに残っていく実績が改善のための分析対象として資産化するということになるので、長くアカウントを保持すれば、比較対象となるデータは増え、過去の推移を元に改善を行うことができます。逆に言えば、頻繁にアカウントが変わったり、突発的なキャンペーンが多用される場合はその資産を有効に活用することが難しくなるということです。
一方で、改善のためのPDCAサイクルが定期的に回っていなければ長い間同一アカウントが保持されているという事実にあまり意味はありません。
運用型広告は設計の巧拙や緻密な運用によってパフォーマンスが何倍にも変わることが往々にして起きますので、広告主が「今の代理店では十分なパフォーマンスは上げられていないのではないか?」「他のパートナーにお願いすればもっと良い結果が得られるのでは?」という疑念を持つのはある程度仕方がないことなのかもしれません。
こういった悩みに洋の東西はないようで、パートナーとなる代理店を頻繁に変える例は、日本でも欧米でもあるようです。少し前のものですが、Search Engine Journal に、一部の広告主が代理店変更を繰り返す行為について警鐘を鳴らした記事が掲載されています。
5 Reasons Why PPC Advertisers Shouldn't Switch from Agency to Agency
http://www.searchenginejournal.com/5-reasons-ppc-advertisers-shouldnt-switch-agency-agency/68062/
企業によって事情はさまざまなので、運用型広告のパートナーを選択するための明確な判断基準はありませんが、改善を繰り返していきながら成果を上げていくタイプの運用型広告に関しては、少なくとも短期間に代理店を(≒アカウントを)頻繁に変えることはあまり得策でないことの方が多いかもしれません。
ここでは、上記の記事を抄訳しながら、広告主と代理店のパートナーシップについて考えてみたいと思います。
運用型広告の代理店を頻繁に変更すべきでない5つの理由
この記事では、以下の5つの理由で、代理店を次から次へと変更しない方がいいと伝えています。
1) 新しい代理店は、常にゼロから始めなければいけない
新しい代理店との仕事をスタートさせるということは、多くの場合代理店がスクラッチでアカウントを作成することになります。AdWordsなどのリスティング広告のコンサルタントは、多くの場合自分なりのカテゴライズの方法、キャンペーンの設計スタイルを持っています。この設計プロセスこそが、アカウントの生産性に直結するからです。個人的に言えば、私は独自のやり方でキャンペーンを作成し、そのルールを他のアカウントでも適用しています。どのアカウントを見ても、そのアカウントで何が起こっているのか、何から手を付けていいかがすぐにわかるからです。
しかしながら、他の代理店が管理しているアカウントを見るのはとても大変です。前代理店の設計方針を理解した上で分析し提案するのにはとても多くの時間と労力が必要になります。
よい代理店であれば、前のアカウントでの結果を考慮に入れて新しいキャンペーンを作るでしょうが、多くの場合、以前に失敗したキーワードや広告を再度入稿することになるでしょう。なぜなら、みんな「自分だったら結果が出せる」と思っているからです。
2)新しいチャレンジは後回しになる
スクラッチで新しいキャンペーンを作成し、初期の立ち上げにいそしんでいる間は、頻繁に更新される AdWords の新しいフィーチャーや新しい別の製品を試す余裕はないことが多いので、必然的に先進的な試みは後回しになります。初期には結果の出しやすいPCの検索連動型広告がメインで採用されがちですが、運用型広告では検索以外でもたくさんのイノベーションが起きています。検索で試行錯誤している間にも、機会損失は起き続けています。検索以外の施策が検索より多くのリターンをもたらすことだって往々にしてあるのです。
一つの代理店と長く付き合い、最適化がある程度できていれば、代理店は関係性の維持のために必要以上に結果を追い求めることだけではなく、新しいことへのチャレンジに時間を割く余裕が生まれます。それを促すことが、長い目で見て広告主の利益につながっていくでしょう。
3)一度経験した失敗策も再度提案される
運用型広告にはいくつものアプローチの仕方がありますが、多くの場合、過去に失敗したアプローチを再度試すことは多くの場合失敗の数をもう一つ積み重ねるに等しい行為です。ただし、仮に同じキーワードだったとしても、広告やランディングページ、サービス内容やタイミングが違えば結果はきっと変わります。一度失敗したからといって次もまた失敗するとは限らないのが運用型広告です。PDCAを前提としたモデルのプラットフォームでは、数多くのアプローチを試すことが結果的に最適化への近道になることが多いのもまた事実です。そのため、運用型広告が得意な代理店であればあるほど、既に過去に失敗した手法も含めて、数多くの提案を行わざるを得ません。
過去に失敗した手法でも、設計や工夫次第で有効な手法に変えられることはまれにあります。代理店を頻繁に変えず、失敗を受け入れたり、なぜそうなるのかをオープンに議論できる姿勢が広告主側にあれば、最終的にアカウントは効率化され、より多くの利益をもたらすことになるでしょう。
4)運用型広告は成果が出るまで時間が必要
大きなアカウントであればあるほど、この傾向は顕著になります。仮に、初期設計に自信があり過去に何度も偉大な成果を上げてきたコンサルタントだったとしても、非常に大きなアカウントで最初からアカウントのポテンシャルをすべて引き出すのは至難の業です。運用を通じて分析の実績が蓄積され、新たな打ち手が見つかることはよくありますし、変化の激しい現在においては、以前成功した同じ施策が来年も通用するとは限りません。いい代理店ほど設計に時間をかけますし、安定して成果が出せるようになるまで数ヶ月かかることは覚悟する必要があるでしょう。
5)長い付き合いによって、代理店も業界やシーズナリティに詳しくなる
神は細部に宿ると言いますが、細部のちょっとした違いが結果に大きく影響するのが運用型広告です。業界特有の事情などは、広告や運用の細かいところに効いてきます。非常にかんたんな例ですが、自転車のパーツを扱うショップで「安全な梱包で無料配送」という広告が他の広告より2倍近くコンバージョン率が良かった例があります。そこで、この広告文が勝ちパターンだとして他の広告グループ(バイク用のウェア)に適用したところ、さっぱり結果が出なかったことがありました。
考えてみれば当たり前ですが、パーツの配送に「破損がないように」と気を使う人はたくさんいても、ウェアの安全な配送を気にする人は稀です。後から聞けば「そんなこと当たり前じゃないか」と思うことでも、大規模なアカウントではなかなか気づくことが難しかったり、結果が出てみないと分からないことは案外多いものです。
代理店を頻繁に切り替えれば、このプロセスを繰り返すリスクが高まるということです。
それでも代理店を変えたくなったら
先ほどの記事の最後では、「よい結果を出すためには、広告主が代理店と協調し、代理店が仕事をしやすいようにサポートすることが大事」だと主張しています。言い換えれば、代理店は自分たちのマーケティングゴールを共有するチームの一員だと考えるということかもしれません。とは言いつつも、様々な事情によって、残念ながら代理店を変える必要性に迫られる時があるかもしれません。
そこで、以下の記事で、代理店(主にSEM)を検討する際のポイントが完結にまとめられていましたので、ポイントだけ抄訳してこの記事を締めたいと思います。代理店変更はない方が幸せかもしれませんが、どうしてもという時は、ご参考下さい。
Considering an SEM Agency? How to Separate the Wheat from the Chaff
http://searchengineland.com/considering-an-sem-agency-how-to-separate-the-wheat-from-the-chaff-141748
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