モバイルが追い風になる動画視聴
動画サイトの雄である YouTube の次の成長を牽引するのはモバイルだと言われています。YouTube のモバイル経由の広告売上は2012年後半から急増しており、2012年10月から2013年3月までの半年間の売上は、それ以前と比較して約3倍に成長しているようです。
YouTube Mobile Ad Sales Triple Over 6 Months | Adweek
(YouTubeのモバイル広告売上は半年間で3倍へ)
"YouTube tripled ad sales on mobile devices in the past six months, generating an estimated $350 million in the last quarter alone"
"YouTube はモバイルでの広告売上が過去6ヶ月で3倍になり、その売上は前四半期(2013年1-3月)だけで3億5,000万ドルに達した模様"
毎年のように年頭にはその時々のトレンドによって「今年は◯◯の年」と言われますが、2013年がもうすぐ折り返し地点に着こうとする2013年6月時点では、「動画」がこの空欄◯◯に埋めるにふさわしい言葉の一つではないでしょうか。ここ数年はスマートフォンの台頭によって世界的にモバイルの普及が加速しており、その勢いが動画の伸長に追い風になっているといると言えそうです。
事実、BI Intelligence のレポートによると、モバイルやタブレットデバイスでの動画視聴は毎月増加しています。特に、動画視聴はタブレットの利用シーンのトップにきていることもあり、PC以外での動画視聴の伸びはモバイルデバイスの出荷台数の伸びとある程度相関関係にあると言えるかもしれません。
2012年2月にGartnerが発表したモバイル動画の国別視聴予測データでは、アジアや南米のユーザーを中心にモバイルでの動画視聴ユーザーが大幅に伸びることが予想されています。人口が多い地域へモバイルデバイスが行き渡り、ネットワーク環境の整備に伴って動画視聴が拡大していくということでしょうか。2012年から2016年で約3倍のユーザー数になるというアグレッシブな予想からも、成長のスピードが驚くほど早いことが伺えます。
そして、こういった動画視聴の伸びをもっとも享受しているのはやはり圧倒的なシェアを誇る YouTube です。
Google は2006年の買収以来 YouTube のマネタイズに頭を悩ませてきましたが、半年間で3倍成長という、YouTubeモバイル広告の急伸によって、ここ最近の Google 全体の売上に対する YouTube の貢献度が目に見えて上昇していることが伺えます。
Apple の Google 離れによる嬉しい誤算 影響(※1)
なぜここにきて YouTube のモバイル広告は急激に伸びたのでしょうか。昨年の夏に「パチンコガンダム駅」で話題になった iOS6 の独自路線化ですが、iOS6 では話題になった地図アプリだけでなく、システム標準アプリから YouTube も削除されています。これが YouTube がモバイル経由の売上増加のもっとも大きな要因だったという見方があります。英 Guardian 紙によると、YouTube のモバイル広告売上がこの半年間で3倍に伸びた理由として、YouTube がシステム標準アプリだった iOS6 以前は、Apple側との取り決めによって YouTube は広告を出すことができなかったものの、標準アプリから外れたかわりに独立したアプリとして2012年の9月にリリースしたGoogle 純製 YouTube アプリでは広告を出すことが可能になったため、iPhone や iPad からのトラフィックを広告でマネタイズできるようになったと伝えています。
YouTube's mobile advertising takes off | Technology | guardian.co.uk
(YouTubeのモバイル広告が離陸)
タブレットデバイスの利用のうち動画視聴が最上位にあるという事実からしても、この変化は強烈だったと考えられます。2013年5月に発表した App Store のランキングでは、発表から8ヶ月しか経っていない YouTube が北米の無料アプリの中で全期間総合4位になっていることからも、Guardian の予測が間違いでないことを示唆しています。(ちなみに日本だと3位)
YouTube ユーザーの4分の1はモバイル
YouTube は単体での具体的な数値を明らかにしていませんが、Wedge Partners のアナリスト Martin Pyykkonen氏(マーチン・パイコネン氏)は、2013年第一四半期(1−3月)でYouTube のモバイル売上は3億5,000万ドル(約350億円)くらいではないかと予想しています。算出の根拠としては、YouTube の Google 全体における売上比率は約10%で、Google の前四半期の売上は約140億ドル(約1兆4,000億円)ですので、YouTube 経由の売上は約14億ドル(約1,400億円)、さらに、Googleユーザー約10億人のうち約4分の1にあたる2億5,000万ユーザーがモバイル経由だというデータから、YouTube においても売上のうち20%〜25%はモバイルが担っているという計算(=280億円〜350億円)ということのようです。
YouTube は2兆円ビジネスへ?
2006年の Google による YouTube 買収額は16億5,000万ドル(約1,650億円)でした。当時は「高すぎる買い物」という批判が多かったことは記憶に新しいでしょう。事実、こういった記事も残っています。
Schmidt: We paid $1 billion premium for YouTube | Media Maverick - CNET News
(エリック・シュミット:我々はYouTubeへ10億ドルを上乗せて支払った)
"Since 2006, many observers have scratched their head over what prompted Google to pay $1.65 billion for the video site YouTube."
"2006年の買収以降、Google が YouTube という動画サイトへ16億5000万ドルも支払った狙いは何なのか、識者の多くが頭を悩ませてきました。"
"Although YouTube made little revenue, the all-stock transaction gave Google control of a company many believed would change the face of mass entertainment. It also led to criticism from skeptics who thought that Google would never get its money back."
"YouTube はわずかな売上しかなかったが、全株式交換により Google の支配下に置かれることで、エンターテインメントのあり方も変わるだろうと多くの人たちは考えていました。一方で、懐疑的な人々からは、Google は決して買収金額を回収することはできないだろうという批判もありました。"
現在では、YouTubeの売上は四半期で約14億ドル(約1,400億円)と試算されていますので、おそらく2013年は60億ドル(約6,000億円)は超えてくるだろうと考えられます。売上だけでも、当時高いと言われていた買収金額を大幅に超えています。
YouTube のセールス担当VPである Lucas Watson 氏は、先日(2013年6月)のBloomberg のインタビューで「広告ビジネス、特にTrueViewのようなコマーシャルビジネスは広がっており、向かうべき方向である 」と答えています。また、モルガン・スタンレーは2013年の5月に「YouTube は2020年までには200億ドル(約2兆円)規模のビジネスに成長するだろう」という予測を出しており、今後もますます伸びていくことが予想されます。
モバイルデバイスの追い風によって、今では買収金額の元が取れているどころか、YouTube が Google の成長戦略の重大な柱の一つを担っていると言えるでしょう。
動画をモバイルでも視聴してもらうために
こういった動画視聴の伸びを活かすために、マーケターはただ動画を YouTube にアップロードするだけでなく、いろいろと工夫をしていかなければなりません。本ブログでは、以前に「動画広告とYouTubeの活用法をおさらいしてみる」という記事で YouTube 動画のTipsについて触れていますが、似たような記事が ClickZ にも載っていましたのでご紹介します。
Optimizing Videos for YouTube Search | ClickZ
(YouTube上での検索のために動画を最適化する)
この記事では、動画のメタデータや動画自体の品質を上げるための細かな最適化の手法が記載されていますが、そういった細かい施策を考える前に、以下の3つのステップが大事だと伝えています。
1. 感情に訴えるような動画を作成すること:高品質の動画コンテンツは視聴者がシェアやコメントをしたくなり、そのシェア一つ一つが口コミの原動力となって多くの人の目に触れることができます。動画という資産がウェブ上に拡散していけばいくほど、多くのリンクを獲得するだけでなく、YouTube上でのポピュラリティを獲得することになり、ユニバーサルサーチやYouTube上での検索結果に好影響を与えることになるでしょう。併せて、高品質の動画を定期的にアップロードしていくことによって、ブランドチャンネルの価値は高まり、フォロワーやコメントの増加など、ブランドロイヤリティの醸成にも寄与します。(注:YouTubeのキーワードツールについては、 「YouTubeのプロモート動画をはじめる際のキーワードの見つけ方」という記事でも触れていますのでご参考下さい)
2. 動画を作る前に、現在の動画資産の分析すること:ソーシャル上で口コミで広がっていくタイプの動画なのか、検索経由などでじわじわアクセスを稼ぐタイプの動画なのか、YouTube Analytics などを駆使して分析してみましょう。
3. キーフレーズとオーディエンスの調査をすること:どういった言葉で検索されるのか、どういった情報を求めているのか、動画作成の王道のTipsは何かなど、多くのソースや分析ツールがありますので、それらを使って調査をしてみましょう。
「Content is king」と、検索マーケティングではよく言われます。動画の内容や品質が悪いとバズが起こったり自然増殖する可能性は低いので、「1. 感情に訴えるような動画を作成すること」のように動画自体の品質を高めていく努力は当たり前のことですが、バズが起こったとしてもその波は一瞬ですので、いかに息の長いコンテンツとして資産価値を保つことができるかは、コンテンツの内容だけでなく、メタデータのような Findability を高める情報や、それを次のアクションに繋げていくトラッキングやアノテーションなどの仕掛けといった、動画に付随する環境の最適化が求められるのではないでしょうか。
そして、いかに探してもらいやすくするかは、2. や 3. で指摘されているような、視聴者やキーワード(ユーザーの求めている情報)の分析・調査が欠かせません。適切なキーワード選定によるYouTube内SEOという狭い話だけでなく、視聴者が求めている情報を(事前に)適切に表現することによって、動画をしっかり観てもらうという本来の目的に繋がっていきますので、こういった指摘は的を得ているように思います。
モバイルやタブレットなど、視聴されるデバイスが増え、そのデバイスのシェアが増えていくことによって、動画を活用したマーケティングの細かな努力の積み重ねが、ユーザーの視聴可能性からブランド・ロイヤリティの醸成まで、時間をかけて大きな違いになっていくでしょう。
YouTube のみならず、動画の市場は様々なプレイヤーが進出してきていますが、どのプレイヤーにとってもモバイルは大きなキーになっていくと考えられます。動画とデバイスの関係に注目しながら、様々な視点で動画を利用したマーケティング手法を引き続きウォッチしていきたいと思います!
※1) 「嬉しい誤算」ではないのではないか、というご指摘を元なかの人から頂いたので訂正しました!
コメント