海外の広告代理店にまつわる記事を読んでいると、時折「Diversity」や「Diversification」という言葉に出くわすことがあります。昨今のアドテクノロジーの普及によってビジネスとしての「多様化」についての言及する記事が目立ってきているようです。
広告関係者は必読のブログである「業界人間ベム」でまさに解説されているように、広告代理店は基幹機能であるメディアバイイング以外の専門領域からの売上構成比が高まってきており、そういった領域の深化自体が広告代理店の競争力として今まで以上に認識されてきたからこそ、「多様化」の意義について再度スポットが当たっていると言えるかもしれません。
先日、ExchangeWire にあがった記事「Moving Beyond Differentiation: Why Diversification Can Evolve The Agency Economic Model (差別化を超えて:多様化はなぜ代理店の経営モデルを発展させ得るのか)」では、広告代理店の管掌範囲の多様化について触れられています。「代理店は終わった」などといった極端な言説も時に見られる中、バランスの取れた簡潔な内容になっていますので、抄訳してみたいと思います。
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Moving Beyond Differentiation: Why Diversification Can Evolve The Agency Economic Model
(差別化を超えて:多様化はなぜ代理店の経営モデルを発展させ得るのか)
ここ最近、広告代理店のビジネスモデルは業界誌を賑わせるようになりました。代理店で働いたことがない人たちはこぞって「ビジネスモデルの崩壊」「イノベーションの阻害」「メディアバイイングの慣習は非倫理的だ」といった残念なレポートを書いています。代理店は、データドリブンの経済において、最もイノベーションの成分が少ない機能だと思われているようです。正直言って、こういった言説は代理店がどのように機能しているかを正確に把握できていない人々の誤った情報です。代理店はいまだ業界に深く関わり、エコシステムの基盤として機能しています。
多くの批判が、代理店の動きが遅いことから起こっています。実際、代理店が新しいテクノロジーを取り入れるのが遅いケースも見受けられますが、代理店というモデルは、新しいテクノロジーを取り入れ続け、提供するサービス差別化しながら生き残っていることを歴史は証明しています。差別化のサイクルは、技術革新のスピードと比例して早くなっていくでしょう。
差別化に終わりはあるのか
差別化は、新しいビジネス領域を確保し市場で生き残っていくために生み出され、それは昨今のアドテクノロジーの領域についても同様です。ただし、基本的に代理店は、メディアバイイングの供給者側という立ち位置を外さないようにしながら、差別化を行なっていかなければなりません。メディアの売上が彼らの収益とリンクしているからです。(別途ストプラなどで報酬を得ている場合を除いては)
ただ、この戦略は、グローバルブランドがメディアバイイングを自身でやり始めたらどうなるでしょうか。(クレアラシルで有名な)レキットベンキーザーは、長い間ビデオ広告のバイイングを自社で行なっています。ケロッグはGoogleと直接仕事をしています。P&GはAudience Science との関係を広げています。メディアバイイングから差別化するのは容易ではありません。代理店は、差別化ではなく、多様化を視野に入れなければいけないのかもしれませんが、多様化という形態は、現在の売上における媒体費依存を減らすことが果たしてできるのでしょうか?
すでに起きていた未来?
とっくに代理店は多様化しているという議論もあります。約4年前、トレードダブラーは自身のアフィリエイトネットワークを代理店へホワイトレーベル(OEM)提供することを決意しました。そうすることで、代理店はファイナンスと管理が不要なアフィリエイトネットワークに変貌したことになります。これは多様化でしょうか? いえ、これは既に代理店が取り扱い可能なメディアチャネルから運用マージンを得る方法の一つでしかないと思います。
2010年、トレーディングデスクという形態が誕生しました。これは多様化でしょうか、それとも運用マージンを増やす方法の一つに過ぎないのでしょうか?
本当の多様化とは、−媒体費の多寡とは離れたところにある− 収益源の多様化だと言えると思います。
データ/分析のコンサルティング
賢い代理店は、分析やデータ系のサービスをラインナップに加えることで多様化を図っています。その場合、コンサルティング契約やフィー/プロジェクトベースで仕事をすることになります。多くは既存顧客への追加契約です。こういった新しい要素は代理店にとってメディアバイイング以外のサービスを提供することを可能にします。
持ち株会社のレベルで見てみましょう。WPPグループの Fabric と Omnicom グループの Annalect はいい事例です。後者は単なるトレーディングデスクから脱却しようとしています。データ、テクノロジー、分析を組み合わせて提供することによって、ソリューションベースでのサービス形態に移行しようとしています。
持ち株会社レベルでこういった機能を確保することによって、2つのキーとなる領域をカバーすることにつながります。1つは、コストがかかりがちなビッグデータの山をレバレッジしてビジネスに結びつける能力。2つ目は、既存の収益源を守ることです。持ち株会社の傘下にある代理店は常に差別化の要素をみつけ収益源を多様化する圧力にさらされていますので、代理店が継続的に顧客の心を掴むには、こういった「価値の追加」が常に求められています。
eコマースやメディアビジネス
Forward Internet Group はイギリスで最も興味深い会社の一つです。彼らは、自身のルーツである検索マーケティングに特化していた頃から、SEOやPPCに頼らない自身の商業的資産を持つと決めていたようです。
自社でeコマースをはじめるようになってから、今ではたくさんのニッチなコマースビジネスを運営するようになっています。
彼らは USwitch や Factory Media という、お世辞にも良いとは言えない資産を買収することからコマースビジネスをはじめました。行き詰まった資産を既存のインフラに統合して、パブリッシャーととして再出発させることで価値を引き上げることに成功しました。
Forward Internet は、新しいビジネスを買収したり投資したりすることで、効果的にSEM代理店から今日のようなインターネットグループに発展しました。そしてそれは、他の代理店にとっても、メディアバイイングを超えて多様性を探し出す先鞭として映ったと言えます。
テックカンパニーになる
テクノロジードリブンによる多様化という事例もあります。先ほどのForward Internet ほどではないですが、FixOneはテクノロジーやデータの領域で高い評価を獲得している代理店です。
Blue Mango Interactive は、オランダのデジタルエージェンシーをリードしている、Greenhouse Group 内のもっとも大きな会社です。ほとんどのオランダのテック系企業がそうであるように、彼らもRTBの領域でイノベーターになりました。革新と多様化によって、彼らのテクノロジー部門はスピンアウトされ、FixOne となりました。
FixOne は今や AppNexus のプラットフォームで最も大きなアプリケーションを開発するまでになりました。マーケットを広げる機会を常に模索していた彼らは、国内にグローバル配信のニーズを満たすサービスが足りないことを発見し、結果として、オランダのあらゆるRTB系の開発をリードするようになりました。FixOne は AppNexus のグローバルな基盤をレバレッジするという、テクノロジーを軸に挑戦したことが成功のカギだと答えています。
「長期的に防衛戦略を作ることは非常に大事だ。さもなければあなたの会社はすぐ時代遅れになるだろう。特に広告スペースを買うことについては、早晩コモディティになる。誰もがメディアを購入できるようになれば、どうやって差別化すればいいのか? テクノロジーとイノベーションを通じてこそ、クライアントへ価値提供が可能になるのだと思う」と FixOne の CSOである Kim氏は言います。
Kim氏は「代理店はクライアントにサービスを提供するようにデザインされていて、イノベーションやハイテク製品を作るようにはデザインされていない。これから、大きな変革の時期に直面するだろう。新しい会社としてスピンオフしたり、すでにある会社を買収したりすることは、代理店のライフスタイルに新しい価値を組み込むために必須の生き残り戦略だと思う」と続け、多くの代理店はそういった戦略を執る準備をしていないのではないかとも伝えています。
代理店は、業界誌に寄稿する訳知り顔の識者に非難されながらも、現在のエコシステムの中で引き続き価値のある役割を務めて続けています。しかしながら、代理店がマーケティングのエコシステムと今後も深い関係を保ち、競争力を維持していくためには、新しい売上モデルを開発し、差別化から多様化への変容を求められるようになるでしょう。賢い代理店は、テクノロジーという次のフェーズに移行することが求められているという現状に関わらず、常日頃から素晴らしい「製品」を開発しているものです。
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