広告代理店と広告主の関係を考えてみる



広告代理店と広告主の今

広告代理店と広告主の関係というのは、以前からさまざまな側面で語られています。

それは例えばフィーかコミッションかという収益モデルの差異に表れる利害の微妙な不一致や、それに付随した広告を取扱う量とサービスの質の関係であったり、メディアのトレンドや底流するテクノロジーの推移、ユーザーの行動の変化にともなって複雑化する広告主の課題に対応する広告代理店の組織や人材の対応力についての話だったりします。課題と展望を最大公約数的に語ればきっとシンプルなことでも、個々の事象に落とすと途端にややこしくなり、いつしかお互いの批判に発展しがちな問題でもあるのではないでしょうか。

そういった傾向は洋の東西を問わず、この時代にとっては普遍的な議題なのかもしれません。オンラインのプロジェクト・マネジメント向けソフトを提供するCentral Desktop が行った広告代理店/広告主双方に向けて実施したリサーチによると、調査に参加した294の広告主の約半数が広告代理店に向けてオンラインのプロジェクト・マネジメントシステムを導入するよう要請したことがあるとのこと。


The State of Agency/Client Collaboration Report (調査: 広告代理店/広告主間の協働の現状)
http://go.centraldesktop.com/thank-you-agency-client


もちろん、調査母体がそういったプロマネ系ソフトウェアを提供している企業であり、このサーベイが彼らの営業的な側面を強く持っていること、また、国土の広い北米は日本のように頻繁に実際に会ってミーティングできない/しないという傾向があることは念頭に置かなければいけませんが、こういった調査に伏流している問題は、それぞれの目的とコミュニケーションのレベルにややズレがある、と考えることもできるかもしれません。


(クリックすると調査のダウンロードページに飛びます)


このインフォグラフィックの中で面白い図があります。「Biggest Headaches(大きな頭痛のタネ)」と題されたこの画像は、左側が広告代理店の、右側が広告主の頭痛の原因が端的に表されています。



左側(代理店側)には次のようなタネが並びます。
workload (業務量)
new business (新規ビジネス)
clients (お客さま)
internal team members (社内チーム)
communication (コミュニケーション)
administrative (管理業務全般)
project status (プロジェクトの状況)


そして、右側(広告主側)には次のようなタネが並びます。
quality(品質)
file-sharing (ファイルのシェア)
communication (コミュニケーション)
turnaround times (返答までの時間)
agency unfamiliarity with industry (代理店の業界知識が足りないこと)
project status (プロジェクトの状況)
implementation feedback (実施後のフィードバック)



レポートにも記載があるとおり、代理店の頭痛のタネの多くは、「communication (コミュニケーション)」です。関係者が多いことによる社内調整や、レポートや請求、買い付けや運用などの管理業務全般に多くの時間を割かれ、広告主からの要求に応えていかなければいけないというプレッシャーを感じ続けながら仕事をしている現状が垣間見れます。

一方、コミュニケーションの問題は広告主側にも挙げられており、問題は表裏一体だと考えることができます。広告主側で挙げられている頭痛のタネは「file-sharing (ファイルのシェア)」、「turnaround times (返答までの時間)」、「project status (プロジェクトの状況)」、「implementation feedback (実施後のフィードバック)」などで、これは代理店のようなタスクの多寡ではなく、代理店とのプロジェクト・マネジメントにおける連絡や報告の頻度や内容に不満を持っていると捉えることができるでしょう。

こういった問題を個々の担当者の能力の欠如だとバッサリ切ってしまう向きもありますが、広告代理店は慈善事業ではなくビジネスである以上、担当者の選択と掛けられる時間には、広告主から得られる収益の多寡が大きな係数であることに、オーダーする広告主自身が自覚的でなければいけない部分もあるかもしれません。


代理店と広告主はお互いにどう向き合うべきか

先月(2012年5月)のですが、Search Engine Watch に「4 Secrets About Paid Search Agencies」という記事が掲載されました。



4 Secrets About Paid Search Agencies (リスティング広告代理店の4つの秘密)
http://searchenginewatch.com/article/2181100/4-Secrets-About-Paid-Search-Agencies


内容を読むと別に秘密でもなんでもないのですが、オンライン広告のうち最も大きな割合を占め、運用に最もコストがかかると言われているリスティング広告と、広告代理店の収益モデルがもたらす内部事情を改めて浮き彫りにする内容になっています。

記事には以下の4つの秘密について説明されています。かんたんに抄訳してみます。

1. Every Fee Equates to Hours (フィーとは、使える時間のことである)
リスティング広告を代理店にお願いし、彼らに支払うということは、時間を買うことと同義です。ほとんどの代理店は媒体費に対する料率、もしくは固定のフィー、あるいはその両方でビジネスをしていて、代理店の経費の多くは人件費です。つまり、代理店へ支払う額によって、彼らがそのアカウントにかけられる時間の量が決まります。

アカウントが開始してからの数ヶ月は、実際に支払う額より多くの時間を代理店は割かざるをえませんが、その後掛ける時間は徐々に減っていきます。代理店のアカウントマネージャーは常に可能な限り効率的に、可能な限りよい結果を出さなければいけないというプレッシャーにさらされているからです。大事なことは時間を使うことではなく結果を出すことで、それを理解した上で代理店との関係を作らないといけません。

支払った額に応じた時間をどう使うかが大事です。レポートが欲しい?ミーティング用の資料が必要?毎月ではなく毎週ミーティングしたい?それらはすべて機会費用だと考えなければいけません。

2. An Agency Isn’t Always the Answer (何でも代理店経由がいいわけではない)
よく「オススメのSEM代理店はありますか?」と聞かれることがありますが、その質問に答えるために最初に聞き返す質問は「毎月いくらくらい使ってますか?」です。

ほとんどの代理店は月々の取扱いの最低ラインを1,000ドル(80万円)から5,000ドル(400万円)に設定しています。もしそれなりの金額を費やしていなければ、支払うコストに見合う対応は得られないと思った方がいいでしょう。以下はオススメの予算規模を表にしたものです。



もし低いレベルの予算しかない場合は、代理店より費用のかからないフリーランサーに連絡をとった方がいいでしょう。代理店は専門性を持った人間がアカウントを担当し、戦略と運用の両面でサポートをするため、相応のコストがかかります。そのコストをカバーするために月額の最低媒体費を設定しなければなりません。もし代理店に頼むのであれば最低でも月1万ドル、できれば2万ドルはあった方がいいでしょう。

3. Agencies Can’t Fix a Broken Business or Website (代理店はイケてないビジネスやサイトは直せない)
"悪い製品を死に至らしめるための最良の方法は、素晴らしい広告を出すことです。" このオグルヴィの金言はリスティング広告にもあてはまります。どんなによいキャンペーンを作っても、人々が欲しくないものを欲しいと思わせるのは難しいです。リスティング広告は何にでも効く特効薬ではないのです。

コンバージョン率についても同様で、リスティング広告の収益性にはコンバージョン率が大きな役割を担いますが、コンバージョン率はウェブサイトの出来に左右されます。代理店は通常は広告主のウェブサイトを管理しているわけではありませんし、ランディングページについても同様です。

代理店と広告主の良好な関係維持には、何をどうやって売ろうとしているのか、認識を事前に一致させておくことが重要です。成功するキャンペーンは多くの場合、代理店と広告主のジョイントプロジェクトになっているはずです。

4. Not Everyone is an Expert (みんながみんな熟練しているわけではない)
リスティング広告を取り扱う代理店には多くの有望な若手が存在します。一方で、彼らはまた、ビジネス経験の浅い人間でもあります。

ビジネス経験が浅いということは、人件費も安いということです。リスティング広告は運用負荷が高く人員が一定数必要な一方で、アカウント単価は従来の広告より安いため、代理店は利益を出すために若手の人材を採用するしかありません。 すべてを代理店に丸投げするのではなく、戦略と戦術を広告主自身がしっかりと持ち、予算に合わせて要求レベルをすり合わせていくことが、結果的によい結果を産むことにつながります。


二人三脚のために
以前「インハウスSEM 5つのメリット・デメリット」という記事を書きましたが、その中でも触れているとおり、自社運用か代理店と協働するかの判断を行うにあたって、媒体費の多寡は非常に大きな材料になります。

もちろん、代理店とインハウスのどちらがいいとは一概には言えませんが、代理店と協働する際の適切な予算規模というものは厳然としてあり、かつ、その規模に合わせてどのようなオーダーをするかによって代理店の動きも変わってきます。お互いにアセスメントがしっかりできれば、自ずとパフォーマンスにも結びついてくるのではないでしょうか。

一方で、予算の多寡に関わらず、常に外部からの情報を収集し、施策に活かす体制を整えることは、広告主にも代理店にも求められることです。それぞれのベクトルがうまく合ったときによい結果が出ると思いますので、お互いによいパートナー選びを心がけたいものですね。

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広告代理店と広告主の関係を考えてみる
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