少し前ですが、Ad Age に興味深い記事がありました。
リンク:
DigitalNext: A Blog on Emerging Media and Technology - Advertising Age
Why Every Agency Needs an Earned Media Director
タイトルを適当に訳すと、「なぜ広告代理店はアーンドメディア・ディレクターを求めるのか?」です。 LinkedIn やIndeed で求人を見てもドンピシャの職種は見かけませんが、広告会社のメディア系のポジションには、Earned Media という記述がちらほら見受けられます。
「アーンドメディア」とは、ご存知のとおりトリプルマーケティングで言う3つの柱の一つで、4マス広告に代表される対価を払って情報発信する「ペイド(Paid)メディア」、企業サイトやキャンペーンサイトのように自社で所有して情報発信する「オウンド(Owned)メディア」に対して、消費者の自発的な発言や推薦を促すを中心としたメディアを指します。
ここ最近ソーシャルメディアマーケターやソーシャルストラテジストなど、ソーシャルメディアに関わる職に色んな意味で脚光が当たっていますが、ソーシャルメディアはあくまでアーンドメディアの形成要素の一つでしかないと考えると、企業内ではなく、広告代理店の中にアーンドメディア関連の職種が求められる背景が類推できるのではないかと思います。
上述の記事には以下のような記述があります。(太字は筆者注)
Creating compelling content – videos, games, contests, promotions, articles etc. – is just the first step. You then have to use paid media – online, PR, events and other media buys - to encourage the spread of your content. So earned media is not really "free" after all, and it takes a lot of expertise in media planning, buying, and measurement to get it right.
Agencies are understandably getting lots of calls from clients asking to "get on this earned media thing." Now, agencies don't just have to do what they've always done – create ads and buy media – they must also attract, motivate, and engage specific audiences with a brand's content. Agencies have to "earn" media for their clients in addition to buying it. But who is responsible for managing earned media at an agency? Certainly, activating sharing of content is a far different role that just buying media – because it involves identifying, understanding, and measuring social audiences and their sharing patterns.
(抄訳)
競争力のある魅力的なコンテンツを作ることは、あくまで最初のステップでしかない。コンテンツを作った後はペイドメディアを使ってコンテンツを拡散させなければならない。アーンドメディアとは実際には無料ではないのである。そしてアーンドメディアを活用するにはメディアプランニングの深い専門知識や確かな成果指標を持っていないといけないのである。
広告代理店は顧客から常日頃「アーンドメディアの企画よろしくね」などといったリクエストをもらっている。普段の仕事である広告の制作やメディアの買い付けだけでなく、特定のオーディエンスの興味を喚起し、顧客のブランドコンテンツへ誘導しなければならない。メディアを買い付け(Buy)るだけでなく、増やさなければ(Earn)ならないのだ。しかしながら、現在の代理店の職掌の中で、誰がアーンドメディアのマネジメントの責任を負うのだろうか。コンテンツをシェアするのは、ただ単にメディアを買い付けるより難しい。シェアするだけでなく、オーディエンスを定義し、理解し、計測しなければならないからだ。
アドテクノロジー=ディスプレイ広告の構造改革、というある種単純な図式に引っ張られるかのようにネット広告ではディスプレイ広告の取扱高が増えていますが、それにともなって広告がユーザーに届くまでの間に多くのテック系プレイヤーが乱立することになり、間接コストはじわじわ上がっています。つまり、取扱高が上がっても、その増加分ほどの利益が広告代理店側に残るとは限らない状況です。料率でメディアの売買をしている限り、ある程度の出稿規模がある広告主でないと経営的には厳しい、何とも難しい舵取りを求められる局面だとも言えるでしょう。
それは別の観点で言えば、広告代理店の本来の価値である、企業のマーケティング上の課題を解決する企画力と実行力の必要性が改めて前景化しているとも言えると思います。折しも、「無料」という竹槍や、「エンゲージメント」というモヤッとしたキーワードで勝負するソーシャルメディアコンサルタントが企業にプレゼンできるムードがあり、これまでのメディアプランニングだけでは片手落ち感が出てきてしまうところに、この領域に踏み出さざるを得ない代理店の危機感を感じることができます。
一方、ソーシャルメディアという狭義の仕組みの運用や広告を請け負っても、オーダーとしては安いし、手間ばかりかかって正直儲からないのが実情だと思います。特に、運用だけ預かってしまうと、それはこれまでの電話でのサポートセンターをネットに移して受注しただけ、のようになりかねず、そもそも広告代理店がやる仕事ではありません。また、上記の引用にあるように、アーンドメディアは別にソーシャルメディアだけではないですし、ペイドメディアやオウンドメディアも組み合わせて企画しないとある程度大規模なキャンペーンは連動性がなく、単発の「とりあえずやってみた」感じだけが残る仕事になってしまう危険性があります。
今でも、ソーシャルメディアに関わる求人は(特に北米では)たくさんあります。これからソーシャルメディアにトライしたり、社内に知見をためはじめている企業が多いフェーズだからだと思います。一方、基本的に仕事というのは、士業のような非常に高度な専門知識や資格が必要なものを除いて、その範囲を割れば割るほど求められる技能や与えられるポジションはジュニアなものになりますので、広告代理店においては、ソーシャルメディアも含めた総合的な企画や導線設計がつくれなければ顧客から対価を頂戴することは難しくなるため、必然的にソーシャルメディアに限らず、幅広い知識や様々な経験が求められる職として、アーンドメディア・ディレクターという職が定義されているのかもしれません。
実際、デジタルエージェンシーのThree Ships Media にアーンドメディア・ディレクターの募集要項があったので見てみますと、以下のように、何だかいっぱい求められます。
リンク:
Director of Earned Media
Qualifications
4-8 years advertising agency experience, at least 2 years project management. Demonstrated proficiency in copywriting, design and video editing. Strong familiarity with search engine optimization techniques. Proven management track record. Experience working with Photoshop, Illustrator, InDesign, Flash, and PowerPoint. Experience working with HTML, PHP, CSS3, and HTML5 is a plus. Familiarity with marketing concepts across various industries.
(意訳)
4年から8年程度の広告代理店での経験。最低でも2年間のプロジェクトマネジメント経験があること 熟達したコピーライティング、デザイン、動画編集等の能力があること 検索エンジン最適化の技術に精通していること マネジメントの経験があること フォトショップ、イラストレーター、インデザイン、フラッシュ、パワーポイントが使えること HTML、PHP、CSS3が理解できること。HTML5が分かるとなお良い 様々な業界のマーケティングに精通していること
マネジメント経験を求める割にフォトショップをいじる可能性を示唆される、何とも微妙な応募要項ではありますが。。。
ただ、前述のとおり、アーンドメディアの企画にはペイドメディアを利用しながらオウンドメディアと連動する、なんてことが頻繁にあることが容易に想像できますので、異なるチームの業務を理解しながら連携させるという舵取りの経験が求められるのだと思います。
今後も広告代理店内には多くの職種が生まれると思いますが、オペレーション部分はどんどんテクノロジーが入ってきますし、新しい技術はいつしか枯れ、業務の範囲や求められるものの幅・深さは広がる一方なので、全体を俯瞰しそれぞれの局面を判断できるディレクションの能力がより一層重要視されていくのでしょうね。
大変な反面、面白いことも増えていきそうなので、頑張ってキャッチアップしていきたいものです!
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