CCCMのカギは、データ連携、自動化、マルチチャネル。 −ディレクタス 荒木慎二氏:State of AdOps vol.19


「State of AdOps」は、現在急速に伸びている運用型広告の成長を支え、実際の現場で価値をつくりだしている広告運用(AdOps)のスペシャリストたちに焦点を当てるインタビューシリーズです。広告運用の最前線にいる方々が感じていることを語って頂くことで、運用型広告の輪郭を少しでも捉えることができればと考えています。

※過去の記事はこちらから。

第19回目は、EメールマーケティングやCCCM(クロスチャネル・キャンペーンマネジメント)コンサルティングを行う株式会社ディレクタスで、様々なプロジェクトの導入を支援してきた荒木慎二(あらきしんじ)さんにご登場頂きます。

ダイレクトメールの時代からOne-to-Oneマーケティングをリードしてきたディレクタスの現場で活躍されている荒木さんに、マーケティングキャンペーン「運用」の現在についてお伺いしました。


# インタビューは 2015年8月に行われました。



インターネットの普及と一緒に成長させてもらった


●まずは荒木さんのこれまでの経歴から教えていただけますか。

株式会社ディレクタスの荒木です。ディレクタスは2社目で、前職からずっとEメールマーケティングの仕事をしています。最初の会社は15年ほど前、ちょうどネットバブルがはじけた後くらいに入社しています。それまでは大学院の博士課程3年だったので、そろそろ働かないと、というタイミングで拾ってもらった感じですね。

前職では3年ほど勤め、当時はまだ社員が10人以下だったディレクタスから誘いを受けて入社しました。入社して10年以上経ち、現在は40人ほどの規模までになりました。インターネットの普及と一緒に成長させてもらったと感じています。


●では、最初にご縁のあった会社がきっかけになって、その後15年間、Eメールマーケティングのお仕事に従事されているんですね。

はい、大学院ではEメールとはまったく違う、地理やお遍路に関する研究をしていたので(笑)。


●えっ、お遍路!それはちなみに…(10分ほどお遍路トーク) …すみません。では話を戻して、ディレクタスでは、具体的にどのようなお仕事をされているんでしょうか。

現在一番多いのは、クロスチャネル・キャンペーンマネジメント(以下:CCCM)の導入です。私はマーケティングテクノロジーグループという部署とソリューショングループという2つの部署を兼務しているのですが、マーケティングテクノロジーグループがCCCMの導入を行い、ソリューショングループがEメールマーケティングの運用を行っています。

運用については、Eメールの配信の設定、配信リストの作成、A/Bテスト実施時の設定、その結果の分析を行っています。その他には、顧客分析や顧客満足度に関するアンケートを行ったりもしますね。


データ連携、自動化、マルチチャネル。


●CCCMについて改めてご説明いただいてもよいでしょうか?

CCCMは、特にBtoCの分野におけるマーケティングオートメーションの仕組みのことを指します。詳しくは以下のURLなどをご参考頂きたいのですが、よく引き合いに出されるのが、既存のEメール配信システムとの違いです。


参考:CCCMとは何か ~One-to-Oneマーケティングを実現するCCCM | 『BtoC向けマーケティングオートメーション CCCM入門』 Web担特別公開版 | Web担当者Forum

参考:著者インタビュー:『BtoC向けマーケティングオートメーション CCCM入門』 岡本泰治氏、橋野学氏 | Unyoo.jp




既存のEメール配信システムとの違いは、大きく分けて3点あると思います。1つ目は、データ連携の自由度。クロスチャネルと言うくらいなので、連携に価値があると言ってもいいと思います。

そして2つ目は、自動化です。データ連携においての自動化もあれば、コンテンツ生成やパーソナライズという意味での自動化もあります。3つ目は、マルチチャネルへの対応への柔軟性が、今までのEメール配信システムと大きく差があると思っています。特に、データや他のツールを連携させる部分が、価値であると同時に難しさでもあり、導入の肝になると思っています。


●データ連携の難しさというのは、例えば、AのツールとBのツール、それぞれが持つデータ構造が全然違ったり、そもそも元データが整っていなかったり、ということですか?

はい、そういうことですね。よくある話なんですが、「キー項目がない」というような事態です。例えば、基幹のデータはこういう体系で作られているんだけれど、Webから取り込むデータは別のIDがCookieに割り振られていて、両者がくっつかない、というようなことです。

広告であれば、仮にそういうことが起きても、データベースではなくCookieのIDをプライマリキーに変えたりできますが、基幹のデータベースは少なくともEメールアドレスが必要だったりと、紐付けるときにハードルが極端に上がることがありますね。


●では逆に言えば、データ連携がある程度できてしまえば、プロジェクトの何割かはできたようなもの、という感じなんでしょうか。

うーん、最終的には形にはなりますが、ツールの連携に価値があるということは、ある機能はこのツールで、別の機能はあのツールで、というように、妙にツールやそれに紐づくプレーヤーが増えてきやすい構造ですので、その交通整理がかなり重要で、大変だったりもします。


●なるほど、ありがとうございます。先ほど仰っていた自動化の部分もお聞きしたいんですが、︎CCCMはデータ連携の自由度があるからこそ、その部分の自動化はある程度必須要件だと思いますが、コンテンツの自動化についてはいかがでしょう?メールへ商品の動的挿入みたいなイメージが一般的ですが、すでに色んなイノベーションがあるのでしょうか。

CCCMをやっていて、「こんなことをするんだな」と思うことがあります。通常レコメンデーションとの連携において、普通の配信システムのツールだと、データを一度データベースに格納した上で、個別に差し込んでから送るのが一般的です。でもそうではなく、配信する際に外部のAPIを叩いてレコメンドデータを取得し、1通ごとに差し込みながら送る、といったことをしているんです。


●それだとトランザクションがものすごく増えないですか?

はい、増えるので、日本の配信システムではあまりやらないんですよね。日本の配信システムは「大量に確実に送る」ことに重きを置いているものが多いので。1時間に何万通と送ることが目的の場合はやりませんが、CCCMではそういった個別送信をスクリプトなどで組めて送れるんですよ。


●本数の少ない︎BtoBであれば可能なのかなと思うのですが、データ量の多いBtoCでもできるんですか?

それができるのがCCCMなんです。例えばユーザーがカートを放棄していて、放棄している商品に紐付く商品のレコメンドを、レコメンドツールから引っ張ってきて送る、といったことですね。コンテンツも、特定のデータを呼び出す小さいプログラムのようなものを書いて生成することができます。

例えば、カートを放棄した商品コードを格納するテーブルを作り、あるユーザーが放棄したカートに3つの商品が入っていたとしたら、メール配信をするときにその3つのデータを商品マスターから都度参照して、コンテンツを生成させて送ります。普通だと、1回データをすべて成形した状態にしてから差し込むだけのことが多いんですが、配信時にリアルタイムにそれを生成します。




オフラインとCCCMの連携も加速


●ありがとうございます。CCCMの言葉に入っている、マルチチャネル・クロスチャネルについても教えていただけますか。

これからチャネルはますます増えてくるのではないかと思います。データ同士を連携させるところのハードルをクリアできれば、あとはアウトプットするだけですので。日本の場合は海外と違ってショートメッセージ(SMS)なんかは制約があり、なかなかできなかったりするのですが、たぶん増えてくると思いますね。


●マルチチャネルというのは、メールのみならずさまざまな顧客データやマルチデバイスのことを指していますか?

そうですね。この後おそらく増えてくるのはスマートフォンのアプリで、Webへの出力や、広告や位置情報と連携するような事例も出てくるのではないでしょうか。

我々も最近では salesforce marketing cloud とビーコンを連携するしくみを作りました。例えば、ゴルフ売り場に行って初心者用のクラブセットを初めて買った、という購買履歴があれば、その人がお店に来たら、無料初級レッスンが受けられますという案内を出す、というものを実際に作って連携させました。お客さんの顧客体験をよくするために、新しく繋ぐものを我々で考えてシミュレーションを提供することも行っています。





●プッシュの精度を上げるために、ますますデータ連携の重要性が増してくるということですね。

はい。スマートフォンのアプリやSMSは、シンプルなプッシュ通知機能ですので、仕組みが作れれば比較的うまく行きやすいのではないかと思います。

あとは、オフラインチャネルとの連携も今後ますます増えてくると思います。DMでは、すでにデータを流し込んでオンデマンド印刷している例もあります。電話、コールセンター、店頭など、そういうものも絡んでくるとデータの種類も違いますので、運用に乗せるのは大変ですが今後需要が増えてくるのではないかと思っています。


設計と運用の重要性


●ここまでのお話で、かなり大変な世界なのが分かってきました・・・(笑)。技術面や環境面ではどんなところに課題を感じますか。

繰り返しになりますが、導入時のデータ連携はハードルが高いと思います。その他には、お客さまが導入した後、どういう運用体制でやっていくかが重要だと思いますね。必ずしも自動化したから楽になるわけではなく、いろいろできる分もっと大変になることも想定して体制を作っておかないと、次の施策を行うことができず、あまり価値が出せないことになります。

あとは、最初から複雑なことをやりたいというお客さまもいらっしゃるのですが、初めから無理をすると、後々ひずみが出てくることが多いです。初期の実行時はなるべくスモールスタートにして、かつ徐々にスピード感を持って変えていく体制を持った方がいいと思いますね。


●CCCM導入の具体的な仕事の流れを知りたいのですが。

詳細資料はお見せできないのですが、例えば人材系の会社であれば、募集企業に対しては「こういう人が見ています」という情報を、求職者に対しては「こういう募集が出ました」という情報を自動化するために、まずシナリオをたくさん作るんですね。


●そういう場合は、重要度別に考えられるケースを網羅していく感じなんでしょうか。

最初にカスタマージャーニーのようなものをずらっと作り、それを場面ごとに切り分けて個別のシナリオに落とし込むと、たくさんのシナリオができます。すべてのシナリオを実施するのは現実的ではないので、結果的にその中のいくつかに絞ってやりましょうという感じになります。連携させるデータが多いと自然とシナリオも増えるので、理論値は膨大な量になってしまいますので。


●カスタマージャーニーって、仮説ベースですか?それともデータに基づいて設計するのでしょうか?

データに合わせて運用で修正をしていくことになりますが、初期はその元になるデータがないので、設計は仮説に基づいて行うことが多いです。

ただ、理想的なシナリオを実施するために連携させるデータを増やしていくと、パターンだけでとんでもない量になります。結局は、広げすぎるとうまくいかないので、仮説の精度を挙げるためにも、現実的なシナリオに落としこんでいくプロセスが大事ですね。


●なるほど。やりたいことを広げようとすると運用が困難になっていくし、ある程度のところまではそんなにコストがかからないけれど、そこから先にいろいろ網羅しようとすると、突然コストが上がる、みたいなイメージでしょうか。

そうですね。あとは、利用するツールの特性と合わせることも大事です。ツールとやりたいことの相性が悪いと、実現の難易度が上がります。お客さま側で「このツールにする」と決めていらっしゃる場合などは、そのツールに合わせてできることとできないことをちゃんと説明するようにしていますね。ベンダー側は基本的に自社に都合の悪いことは言わないですから(笑)、あとでクライアントが困らないように中立的に説明するように心がけています。


●ツールの特性とやりたいことを合わせる設計が何より大事なんですね。CCCMの運用では、A/Bテストやデータベースの更新連携、結果を分析して次の設計に生かすといったことを行いますよね、これは広告運用と非常に似ていると思いました。

構造としては非常に近いと思います。違う点を挙げるとすれば、広告運用よりもサイクルが長いことではないかと思います。リスティング広告であれば母数が多い場合1日で結果が分かったりすると思うのですが、メールは基本的にユーザーに1日1本送って、頻度や内容を変えていろいろと試しながら進めていくので、少なくとも1−2週間は実際に回してみないと差が見えにくいです。

また、変更を加えようとすると、間違いがないようにテスト配信をしてから切り替えなければなりませんので、リスティング広告のような設定の気軽さがありません。そういった意味ではスピード感が違うのかなと思います。また「変える」ということに対しての負荷も違いますしね。


●続いて、テクノロジーやセキュリティについてはいかがでしょうか。技術の進化や、ツール事態の変遷も早いので、キャッチアップが大変などといった課題はありますか?

大手ITベンダー各社が提供するマーケティングクラウドのようなプラットフォームは製品アップデートが毎月のようにあり、キャッチアップは大変ですね。あとは、外資系のサービスが多いので、日本側に情報がどうしても少ないという事情もあります。

セキュリティは、やはり個人情報を扱うことになるので、データの扱いは厳密です。企業によっては情報セキュリティ委員会を設けてチェックシートでしっかり管理するところもあります。弊社は元々メールマーケティングを行ってきているので、Pマークも取得しており、社内に檻のようなセキュリティルームを設けてそこで管理しています。



ロジカルに考えられること。


●ありがとうございます。最後に、これからのCCCMの変化について、荒木さんのご意見をお聞かせ下さい。

クロスチャネルコミュニケーションが、夢物語から現実になるのではないかと思います。そうするとよりCCCMの導入業務は大変になると思いますが(笑)

ツールは流行り廃りがありますが、結局やっていることはCRMの頃からあまり変わらないと思うんですよね。関わっている我々は、「何のためにやるのか」から目を逸らさずにいるべきだと思います。マーケティングでもテクノロジーでも原理原則を理解することが大事ですから。


●広告運用でもまったく同じですので、非常に共感します。CCCMに関わる人にはどういう経験や素養が必要だと思われますか。

そうですね…、例えばベン図が書けて整理ができる、というのはデータを見る上で必要な素養ではあります。つまり、ロジカルに考えられること、でしょうか。弊社ではそんな方と一緒に働きたいと思っておりますので、興味がありましたらぜひ(笑)。

●本日は貴重なお話、ありがとうございました!


リンク:採用情報│株式会社ディレクタス


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AdMarkeTech.(アドマーケテック): CCCMのカギは、データ連携、自動化、マルチチャネル。 −ディレクタス 荒木慎二氏:State of AdOps vol.19
CCCMのカギは、データ連携、自動化、マルチチャネル。 −ディレクタス 荒木慎二氏:State of AdOps vol.19
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