「State of AdOps」は、現在急速に伸びている運用型広告の成長を支え、実際の現場で価値をつくりだしている広告運用(AdOps)のスペシャリストたちに焦点を当てるインタビューシリーズです。広告運用の最前線にいる方々が感じていることを語って頂くことで、運用型広告の輪郭を少しでも捉えることができればと考えています。
※過去の記事はこちらから。
第15回目は、第8回目のインタビューにご登場頂いた岩崎さんと一緒にインハウス運用を推進されている、株式会社リブセンスの城本真奈実さん、月島まりもさんのお二人にご登場頂きます。広告に関わらず、新しい技術を積極的に取り入れ改善を続けているイメージのあるリブセンスのインハウス広告運用は、いったいどのような仕事の進め方なのか。実務を担うお二人にお話をお伺いしました。
# インタビューは 2014年12月某日に行われました。
運用型広告は、基本であるアドワーズから始めた。
●リブセンスさんは2回目の登場です。月島さん、城本さんのお二人は前回ご登場頂いた岩崎さんと一緒にお仕事をされていらっしゃったとお聞きしています。まずは、月島さん、城本さんが現在のお仕事に就かれるまでの経緯と具体的な業務内容を教えて下さい。
月島:リブセンスの月島です。リブセンスでは現在キャリア事業部の集客企画を担当しています。
それまでは、社長室→不動産事業部→デジタルマーケティング部と異動してきまして、リブセンスが持つ各メディアの SEO の横断的なオペレーションや、ペイドメディアを活用した集客企画を行なってきました。
リブセンスに入社する以前は、自営業でカフェを経営していました。その後 SEOコンサルティング会社、広告代理店と転職してきています。
広告代理店では、広告の営業や運用ではなく、ランディングページや企業サイトの企画を行なっていましたが、企業サイトではどうしても制約が多い中で企画や運用を行なっていかざるを得ないことが多く、ウェブサイトの立場が必ずしも高いところばかりではないので、仕事の進め方に難しさを感じていました。その頃から規模の大きい BtoC 向けの企業に転職したいと思っていて、集客や SEO に強いイメージのあったリブセンスに転職して現在に至ります。
城本:リブセンスの城本です。アルバイト事業部で集客を担当しています。
それまでは、総務として会社の事務周り全般を担当し、その後デジタルマーケティング部へ異動、事業部横断でペイドメディアでの集客を担当していました。2014年6月にアルバイト事業部へ異動し、ジョブセンスへの集客を目的としてペイドメディア全般を担当しています。
リブセンス入社の前は、新卒で百貨店に入り、店舗の誘致や集客のコンサルティングを行なっていました。その後大手EC企業へ転職し、マーチャントの広告与信を主に担当していました。当該ECサイト上には、出店店舗数が非常に多く、広告枠も沢山ありましたので、膨大な数の与信をとらなければならず、オペレーションはなるべく自動化できるよう工夫を心がけていました。
最初の2社は比較的規模の大きな組織で仕事をしてきたため、ベンチャー企業で個人の裁量が広い仕事を求め、2013年にリブセンスへ転職しました。
●お二人とも2014年の中頃までデジタルマーケティング部で事業部を横断した集客を担当されていらっしゃったということですが、それ以前は運用型広告の集客の経験はなかったと思います。最初はどのように業務に取り掛かられたのでしょうか。
月島:私がはじめにアドワーズを担当していまして、城本さんが異動されてきてからは私が Yahoo!プロモーション広告を担当し、城本さんがアドワーズを担当するというかたちで、プラットフォーム横断で最初は担当していました。最初は運用型広告の基本のアドワーズから始めるのがチームの方針でした。
城本:最初にチームを編成したときに、岩崎から、「なぜリブセンスはインターネット広告をやるのか」「広告によって、ユーザーに対しどんな影響を与え、会社にはどういう影響を与えるのか」といったことをきちんと考える時間を取ろうと呼びかけがありまして、みんなで考えました。
月島:週に1-2回くらい集まって、チームのコンセプトを固める作業でしたね。
何のための仕事なのか理解してから始めれば、ブレない。
城本:そこで、
「ユーザーに新しい体験をしてもらえるように、より便利なタイミングで、必要な情報を届ける」
「変化の激しい業界だからこそ、変化を楽しむ」
といった幾つかのミッションを固めました。
●素晴らしいですね。特に最初のものは Google とほぼ一緒ですね。
城本:確かにそうですね! あと、「チームが仕事を楽しめているかどうかはリーダーの責任だ」と岩崎は言っていて、「プライベートや家庭を大事にする」「どんなに遅くても8時には帰る」というのもチームとして決めました。
●ちょっとカッコよすぎな気がしますね(笑)。ところで、これから取り組む仕事の意義や全体像を理解してから業務に入れたのはやはり良かったですか?
月島:広告代理店などでは、他の人から業務を引き継がなければいけなかったり、業務自体が逼迫していることが多いので、どうしても具体的な細かいところばかりに注力してしまって、何のためにこの仕事をしなければいけないのかという芯のような部分を見失いがちなところがあると思いますが、この作業があったので判断がブレずに済みました。
城本:何のための仕事なのか、何をしたらどうなるのかを理解しながら業務に入ることができたので、未経験だった私としては非常によかったです。リブセンスの文化としても、何かを始めるときは、方向性を明らかにして、ミッションを決めるということに力を入れています。
広く浅くではなく、インパクトに集中する。
●2014年11月の Search Summit では、岩崎さんから「未経験からわずか半年で完全に任せられるレベル」だと言及されていました。具体的にどうやってキャッチアップしてこられたのか教えてください。
城本:最初のコンセプトづくりは緻密にやっていきましたが、それが決まったあとは「じゃ、よろしく」という感じですぐに任されました。
業務全体を体系的に理解しているのは岩崎ですが、彼は忙しくなかなか教えてもらう時間はとれないので、書籍とウェブで自学自習していきました。
進め方としては、広く浅くやっていくのではなく、インパクトがありそうな施策や新しく取り組むメディアやツールを決めて、その施策に集中的にリソースを注ぎ込んで経験や知識をため、それを何度か繰り返したあとに振り返って自分の中に定着させていく、といった進め方をしました。
こういう進め方は、最初は苦しいのですが、一度経験したことを、後から別の施策をするときに「あっ、あの時のあれはそういうことだったんだ」と気付くことが多いので、自分の中で点が線に繋がります。
月島:私は城本さんがデジタルマーケティング部にいらっしゃる前までは、岩崎に1日1時間レビューの時間をもらって、分からないところは全部聞いていました。
ミッションができてから分かりましたが、半年間ほど私はミッションなしでやっていたので今思えば辛かったかもしれません(笑)。「何となくこうすればいいかな?」というのは漠然とありましたが、ミッションを明文化するまでの過程で、納得感を持って業務に取り組めるようになりました。
もちろん、最初の半年にがむしゃらに手を動かして試行錯誤した経験があったからこそ、ミッションというか、ブレない判断基準の必要性を感じたのだとも思います。
それはもう気持ちいいくらい、任されます。
●差し支えない範囲で、例えばどういった業務を任されたのでしょうか?
城本:総務からデジタルマーケティング部に異動して1ヶ月の頃に「メディア内にタグの直書きとタグマネージャーの管理が混在しているので、まとめて?」と言われました(笑)。
月島:それはひどい(笑)。 私も入ってすぐに「アドワーズのコンバージョン増やして」って言われました。
城本:それはざっくり(笑)。 あと、データフィードの意味が分かっていない時期に、「フィードフォースさんの DF PLUS と連携するからあとはよろしく」と言われました。任せ方は、それはもう気持ちいいくらい任されます。
参考:データフィード最適化サービス「DF PLUS」、全業種に向けたGoogle動的リマーケティング広告の配信に対応~リブセンスが運営するアルバイト求人サイト「ジョブセンス」で導入・運用を開始~
●すごいスパルタ教育ですね(笑)。ちなみに、「こうすればもっとよかった」と振り返って思う点などはありますか?
城本:ある程度施策が進み、規模が大きくなったフェーズのアカウントに対して未経験の私が担当することになったので、経験者には当たり前でも未経験なので気づかないような取りこぼした施策があるのではと不安になることがあります。
例えば、アドワーズに関しては担当した時から既にコンバージョンオプティマイザーを活用した運用になっていたので、実はマニュアルでの CPC運用の経験が殆どない、といったようなことです。運用型広告の基本を体系的に学べる機会や時間がもう少しあっても良かったなと今では思います。
月島:今後チームが大きくなったり組織が分かれたときのことを考えて、最近は勉強会を開催しています。デジタルマーケティング部から組織変更で各部門の配属になったので、知識やベストプラクティスの共有を部門横断でできるように工夫しています。
●なるほど。ところで先ほど書籍やウェブで勉強されたとありましたが、具体的に参考になったものがあれば教えて下さい。
城本:書籍は、リスティング広告の場合は、『新版 リスティング広告 成功の法則』、『リスティング広告 プロの思考回路』、『実践 インハウス・リスティング広告』などですね。
『アトリビューション 広告効果の考え方を根底から覆す新手法』、『DSP/RTBオーディエンスターゲティング入門』、『顧客を知るためのデータマネジメントプラットフォーム DMP入門』 なども勉強になりました。
月島:ウェブでは、特定のブログやニュースサイトを Feedly で購読しています。必ず目を通すのは、日刊リス男TIMESさん、SEM-LABOやアナグラムさんのブログ、でぶててのWEB録さん、アユダンテさんのコラム、Inside AdWords-Japan、Unyoo.jp などですね。最近は英語の記事もなるべく目を通すようにしています。
●何かいろいろありがとうございます(笑)。
横断組織と事業部の違い。
●お二人は現在それぞれ事業部で集客を担当されていらっしゃいますが、自社メディアの集客における運用型広告の位置付けを教えてください。
城本:リブセンスでは、2012年までほぼ SEO のみで集客を行っていたのですが、2013年から今後のサービス拡大やリスク分散を考慮して Web広告を始めました。各サービスの成長とともに広告の利用も増え、現在では、リスティングやリターゲティング、バーティカルメディアへの出稿など費用対効果を見ながら幅広く活用するようになってきています。
運用型広告は、運用で集客の濃淡が調整できますので、デジタルマーケティング部で横断的に集客を担当していた頃よりも、事業部の毎月の目標に合わせて頻繁に変更を加えています。
●運用型広告をデジタルマーケティング部で横断的に扱っていた頃と、現在の事業部体制とで、それぞれ違いはありますか?
城本:事業部を横串として見ることができるメリットは、効率的である点です。一方で、どうしても事業部に対しての理解は浅くなってしまうことがデメリットだと思います。
月島:あとは、どうしても特定の大きなメディアにリソースが集中してしまいがちになりますね。横断的な部署は会社全体へのインパクトが KPI になりますので、おのずと規模の大きいメディアに偏って注力してしまいます。データが大きいのでやりがいもありますし。
事業部付きになってからは、基本的に事業部の方針に沿った運用になり、これまで効率重視で取り組めなかった施策にもチャレンジしています。キャリア事業では、出稿するメディアや、ターゲットにする職種によっても単価や利益の差が大きいので、それぞれを分析して許容CPA を割り出した上で運用ができるようになりました。
●具体的にどのような施策ができるようになったのでしょうか?
城本:事業部になってからは、CPA ではなくて ECサイトのような ROAS を意識した運用に切り替わりました。ジョブセンスで言えば、単に応募を集めるだけではなく、案件ごとに単価を考慮して事業部の売上を最大化できるように入札をしています。
月島:広告が表示されるメディアや、利用するプラットフォームとの相性も細かく見るようになっています。お互いのメディア同士の相性で実際の採用率や応募数、単価が変わりますので、メディア×職種など、重要な変数をクロス分析しています。
城本:既存施策の改善のほかに、これまで以上に新しいことを積極的に試すようにもなりました。細かな調整は場合によってはマイナスになることもありますが、新しい施策はやれば純粋なアドオンになりますので、とにかく新しいものは積極的に試そうという文化になっています。
資金力の競争になったらリブセンスは他社に勝てないので、他の企業がやってないことをいち早く取り入れようとしていますね。フィードフォースさんの Feedmatic(フィードマティック)もそうですし、Googleさんから紹介されたβ版の機能もいち早く取り入れるようにしています。
月島:最近はその「何でもやろう」を繰り返してきたせいか、「これはインパクトあるからやろう」「これは様子見にしよう」といった目利きが少しずつ出来るようになってきた気がします。
システム化することで、効率も効果も引き上げることができます。
●最後に、インハウスで運用型広告を担当している他の企業の方々へ一言お願いします。
城本:広告運用は地道なものも多いですし、新しく情報がない中でも進まないといけない苦しい場面も多いですが、何のためにこの業務があって、どういう影響があるのかを理解できれば、入札ひとつでも単純作業にならずに楽しむことができると思います。
月島:運用型広告は膨大にやることがあり、それを手作業で行っていては時間がいくらあっても足りませんが、このお仕事のいいところはそれをシステム化できることです。作業が短くなるだけでなく、うまく活用すれば今まで以上に効果を引き上げることもできますので、インハウスだからこそ限られた時間を効率的に利用してほしいと思います。
城本:インハウスに限りませんが、β版などの新機能を積極的に試してフィードバックすることで、アドテクノロジーの進化に僅かでも寄与できるのかなと思っています。
●素晴らしいですね。本日は貴重なお話、ありがとうございました!
株式会社リブセンス - Livesense Inc.
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