商品リスト広告(PLA)へ予算をシフトする大手広告主
2012年に本格的にスタートした商品リスト広告(以下:PLA)は、ほんの僅かな期間でEコマースの検索連動型広告において主役とも呼べる位置にまで急成長しました。
2014年初頭に「2014年末までに、Eコマース事業者が PLA に割り当てる広告費は、検索連動型広告の予算総額の3分の1に達するだろう」という Marin Software の予測が出ていましたが、今ではその予測を上回るほどドラスティックに予算配分を変更している企業も多いのではないでしょうか。参考:2014: Year of Google Product Listing Ads | Marin Software
実際、Adgooroo が60,000クエリを元に調査した 2014年第二四半期(4−6月)の広告主別のデータによると、広告費上位のEコマース事業者は、その広告費の過半を PLA に割り当てているという驚くべき結果が報告されています。
参考:Top Paid Search Advertisers Spent 63% of Budget on Product Listing Ads | Adgooroo
「eBayの判断に学ぶ、大規模Eコマースの広告運用トレンド」という記事でも触れていますが、2012年まで実に2億近くのキーワードを入稿していたeBay(↑の表で6位)が、2014年では完全に振り切って予算の大半を PLA に割り当てているという事実が、Eコマースの広告運用のトレンドを如実に表していると言えるのではないでしょうか。
ちなみに、3位の Amazon がまったく PLA を利用していないのには、PLA が Amazon の商品検索広告 Amazon Sponsored Products と完全に競合するため、マーチャントセンターにデータを開示していないからだと思われます。
Eコマースリスティングの主役は PLA へ
上位の広告主の状況が示すように、PLA の市場規模も順調以外の何者でもない勢いで成長を続けています。RKG が発表した2014年第二四半期(4−6月)のレポートによると、PLA の Bing版である Bing Product Ads を含む商品フィード広告費は、前年同期比で72%増加しており、急成長した2013年から勢いはまったく衰えないまま伸長を続けていることが分かります。Bing Product Ads が正式に開始したのは2013年の第三四半期からなので、実質このデータは PLA のみのデータだと捉えて問題ないと思います。
参考:Google Sees Overall Growth Accelerate in Q2, Yet Still Has Opportunity to Expand PLAs - RKG
PLA はこれまで、通常の検索連動型広告と比べてクリック率やコンバージョン率が高く CPC が低いという、ROI で判断したときに優位性があるという理由で伸びてきていました。
実際、Marin Software がつい先日(2014年9月)発表した白書「THE 17 TRENDS, PUBLISHERS, AND BEST PRACTICES EVERY RETAILER NEEDS TO KNOW」でも、2013年1月から2014年6月までの1年半の計測期間を通じて、常に PLA の方が通常の検索連動型のテキスト広告のクリック率を上回っていることが示されています。
参考:The 17 Trends, Publishers, and Best Practices Every Retailer Needs to Know | Marin Software
一方で、最近の調査では、PLA の CPC に関してはもう以前ほど割安感はなく、ほぼテキスト広告と変わらなくなってきているという結果も出ています。
これは、前述の広告主の広告予算比率が示すとおり、Eコマース事業者が ROI の見合わないキーワードの予算を PLA にシフトしていることで、PLA のオークションプレッシャーが高まるのと同時に、相対的に検索連動型広告のキーワードのBroad Terms(一般ワード)比率が下がり、 Branded Terms(社名キーワード)の比率が高くなることで、以前より両者の CPC が拮抗してきていることを示しています。
参考:Google Sees Overall Growth Accelerate in Q2, Yet Still Has Opportunity to Expand PLAs - RKG
もちろん、PLA のコンバージョン率は引き続き高いため、通常のテキスト広告より ROI に貢献しやすい状況は継続しています。言い換えれば、PLA は社名ワード以外ではほぼ最優先の施策になってきた、ということになるのかもしれません。
「効果が良い」以外の成長ドライバー
PLA が急成長している理由は、効果だけでなくその仕組みにもあるという点も忘れてはいけない事実です。PLA はプロダクトフィードをもとに自動的に広告が生成される仕組みのため、マーチャントセンターと商品データベースのつなぎ込みさえできれば(および適切な中間処理ができれば)、Eコマースリスティングの運用で企業を悩ませてきた「キーワード数が肥大しがちで、入れ替わりが激しい」「そのため、広告費以外の部分で運用コストが非常に高い」という問題も同時に解決できるという利点があります。
PLA が登場する以前は、システム投資が可能な一部の大きなショッピングサイトや、サードパーティツールを利用する広告主以外では、キーワードや広告入稿等のオペレーションの自動化は難しかったのが実情でしたが、PLA や DSA(動的検索広告)など、フィードデータやクローリングによる広告作成技術の進歩・多様化によって、ヘタなマニュアル運用よりも場合によっては精度が高く、広告効果も高い配信が可能になりました。
PLAを始めとした新しい広告配信方法によって、最大手の広告主以外でもデータベースやウェブサイトと連動した広告の利用が急速に進むことになり、結果的に運用の効率化にも結びついていると考えられます。
実際、2014年8月に行われた、米国を含む主要5カ国の大規模Eコマース事業者(従業員が200人以上)240社を対象にした Forrester と Google の共同調査によると、自社のリスティング広告運用を半分もしくはそれ以上自動化している企業は全体の 75% にも及び、完全自動化している 8% の企業を含めると、全体の8割以上が運用の大半を自動化しているという調査が出ています。
参考:think.storage.googleapis.com/docs/faster-pace-for-retail-paid-search_research-studies.pdf
何を「自動化」と呼ぶのかは企業によって違いがあると考えられるものの、「マニュアル部分が多いが一部自動化している」という企業も全体の 16% あることから、広告技術を活用した運用自動化は、煩雑になりがちなEコマースリスティング広告において、既にトレンドというより常識に近いレベルだと言って差し支えないと思われます。
ここで重要なのは、「自動化だから人手が要らない」ということではなく、自動化の促進によって、手動で行う仕事が高度化(上流工程へのフィードバックや、分析の多様化)し、マニュアル作業の重要性が一層高まっているということだと思います。自動化が進めば進むほど、仕組みを理解して適切な意志決定ができる人材の市場価値は以前より高まるものと考えられえます。
PLA の抱えていた広告在庫問題
急拡大する PLA の需要を支えるため、Googleは、モバイルPLA の展開や、PLA が表示されるクエリの閾値の調整、ローカル在庫広告の展開など、様々な対策を短い期間で立て続けに行なってきました。しかしながら、PLA はあくまで検索連動型広告であるため(ディスプレイの場合は「動的リマーケティング」)、コマーシャルクエリと呼ばれる購買意向がある程度見込まれる検索クエリの回数がそのまま広告在庫数になります。購買に繋がる検索数が増えない限り、どこかで規模の拡大が頭打ちになってしまう構造です。
検索連動型広告には、Coverage(カバレッジ:検索クエリに対して広告が表示される割合)と Depth(デプス:検索クエリに対して表示される広告の本数)という概念がありますが、PLA は商品情報を表示する広告である以上、広告表示はコマーシャルクエリに限るため、カバレッジは極端には増やせません。そのため、これまでは Depth にフォーカスが当たっていました。
これはつまり、どうすれば検索体験を損なわずに PLA の広告ユニットを増やせるのか、という工夫が必要なことを意味します。PLA は画像や価格などの商品情報を検索結果に表示する広告であるため、テキスト広告より検索結果に表示面積が必要です。通常のテキスト広告より Depth に制限があるということです。
表示面積を広げすぎて検索結果の画面が商品画像で埋め尽くされるようなことになってしまうと、検索エンジンそのものの利便性が損なわれ、ユーザーが離れてしまう危険性があるため、表示面積とユーザーの利便性を損なわないギリギリのバランスで検索結果を表現するために、これまで Google は短い期間でさまざまな表示形式の変更をテストしていました。
例えば、Carousel(カロウセル)というヘッダーロールテストは、まさに Depth を増やすために行われていたと考えられます。
参考:PLA-carousel | CPC Stragegy
広告在庫を拡張する「ショッピング向けAdSense」
表示面積の少ないモバイルデバイスの急速な伸びも PLA の平均Depth にマイナスインパクトがあるため、拡大する PLA の成長率を維持するためには、表示形式以外での広告在庫の増加こそが差し迫った重要な課題だったと推測できます。そこで2014年9月に登場したのが、「ショッピング向けAdSense」と、「PLA の検索パートナーへの拡大」です。参考:Google Brings PLAs To Third-Party Sites Like Walmart.com
このショッピング向けAdSense(AdSense for Shopping)は、リテールサイトに特化した AdSense の新しいユニットで、PLA のみこの枠のオークションへ参加することができます。
リリースにもあるように、AdWords の広告主は、ショッピングキャンペーンの設定で「Google 検索パートナー」が有効になっていれば、ショッピング向けAdSense のあるサイトでのサイト内検索をしたユーザーに広告を表示することができます。AdSense側からすると、検索向けAdSense の PLA 版ということになり、既に存在している動的リマーケティングはコンテンツ向けAdSense に表示されますので、フィードを利用した広告が出る枠としては、それぞれ棲み分けることになります。
ショッピング向けAdSense があるサイトは、2014年9月のリリース時には Walmart.com しか公開されていませんし、参加するにはフォームから申請する必要があるため、普及しているコンテンツ向けAdSense のように大小さまざまなサイトが大量にあるというよりは、一部のショッピングモールや比較サイトなどが中心になると考えられます。
参考:Inside AdWords: Extend the reach of your Product Listing Ads to qualified shoppers
通常のテキスト広告と同様、パートナーでの表示結果は品質スコアに影響しないという旨がリリースには明記されていますので、品質の計算はGoogleプロパティのみで行われることには変わりがないようです。また、通常の検索連動型広告と同様に、個別の検索パートナーごとの結果を確認することはできません。
一般には、「サイト上の広告枠=ディスプレイ広告」として認識されており、アドテクの話題はディスプレイ広告のターゲティングに偏りがちですが、サイト内検索にはユーザーのその瞬間の興味が明確に現れていますので、興味関心をわざわざ類推するよりも関連性の高いターゲティングが可能です。ショッピングサイトの収益化にとってもプラスに働くことが期待できると考えられます。
ショッピング向けAdSense は、PLA を利用する広告主が増加し、広告在庫を拡げる必要に迫られたからこそ出てきた仕組みだと思います。ショッピング向けAdSense によって、商品情報の活用性はますます拡がっていくと同時に、商品情報の活用がEコマースのマーケティングにおいて非常に重要なカギを握ることが改めて明らかになったような気がします。
商品フィード広告の進化はこの2年ほどで急速にその速度を上げています。引き続きこの分野には注目していきたいと思います!
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