検索連動型広告は売上にそれほど貢献しない?
2013年3月に、米国最大のマーケットプレイス/オークションサービスの eBay が発表した「Google の検索連動型広告は売上に対してそれほど効果的ではない」という主旨の調査資料は、リスティング広告の従事者にとって少なからず影響を与えました。
参考:EBay study questions value of Google's main ad service | Reuters
この調査によると、2012年の4月から7月の3ヶ月に渡って、AdWords を続ける地域と停止する地域とに分け、それぞれの売上の推移について分析したところ、広告を停止した地域での売上に目立った低下が見られなかったとのこと。
他にも、「過去1年間で eBay で3回以上購入経験のあるユーザーについては検索広告経由でほとんど利益が創出できなかったものの、eBay での購入履歴がない新規ユーザーに対しては効果が認められた」など、独自に行った調査結果が報告され、話題を呼びました。
eBay は、「他の企業にとっては検索連動型広告がもっと機能するケースはあるだろうし、知名度の低い企業にとっては検索連動型広告は有効」というフォローも入れてはいるものの、この調査が公表された直後から米国の SEM従事者は色めき立ち、「それは単に eBay の広告運用が酷いだけでは」という指摘が殺到し、議論に発展しました。当時の議論の流れは、以下の Search Engine Land の記事にまとまっています。
参考:AdWords "Ineffective" Says eBay, Google "Meta-Pause Analysis" Contradicts Those Findings
また、2014年の6月に調査資料の最終版が発表されたことで、前年に盛り上がった議論が1年ぶりに再燃したのも記憶に新しいです。34ページに渡る詳細な調査報告によって、前年に発表された調査が具体的にどのようなものだったのかを確認することができます。
資料(PDF):faculty.haas.berkeley.edu/stadelis/Tadelis.pdf
キーワード挿入機能の不備
eBay の広告運用のまずさを指摘する代表的な論点としては、キーワード挿入機能(DKI:Dynamic Keyword Insertion)の不備が挙げられます。キーワード挿入機能は、ご存知のとおり「広告グループ内のキーワードを広告テキストに動的に挿入することができる機能」ですが、広告表示のトリガーになったキーワードが広告文に挿入されるということは、アカウント内のキーワードによっては広告文が文章として意味をなさないケースが出てくることがあります。
eBay のように、キーワードが大量かつ自動的にに入稿されているEコマースサイトでは、キーワード挿入機能によっておかしな広告が発生しやすくなります。eBay の発表では、2012年終了時で 1億7,000万キーワードが設定されていたそうですから、中にはとんでもないキーワードもあっただろうことは想像に難くありません。
実際、eBay のキーワード挿入のマズさは有名なようで、以下のページにスクリーンショットがまとまっています。(NGワードだらけで、ちょっと訳しにくいですが…。)日本でも、「○○ならAmazon」という広告が攻めていると話題になったことがありましたね。
参考:
eBads - the Bad eBay Ad Search Game
Humorous eBay Internet Ads - Vaughn's Summaries
キーワード挿入機能を使った広告のマズさは、WordStream のブログをはじめ、様々なところで指摘されました。「リスティングが効果的でないのは、AdWords の問題じゃない、eBay の広告戦略の問題だ」という指摘は、辛辣ながらも一理あると考えられます。
検索連動型広告の代替案としての商品リスト広告
eBay は2012年の1年間で5,100万ドル(約51億円)をリスティング広告に支払っていると発表しています。eBay の販管費の中の「Sales and Marketing」の項目は3,000億円ほどあるため、リスティング広告がこの調査のあとで増減どちらに転じているのかは決算報告からは分かりませんが、彼らの広告戦略が2013年から徐々に変化していることが Business Insider で報告されています。参考:eBay, Amazon And Google's PLA Shopping Ads - Business Insider
上記の図は、2013年の1年間の商品リスト広告を利用した広告主のランキングですが、eBay は2位に位置しています。1位と3位が、多くの企業の商品リスト広告を扱うプラットフォームである Kenshoo と DoubleClick なのを考えると、1つの広告主企業としては圧倒的な1位だと言っても過言ではないでしょう。検索連動型広告の効果に疑問を呈した資料を発表しつつ、商品リスト広告には強烈に投資していることが分かります。
Marin Software によると、2013年の商品リスト広告の取り扱い高は、2012年と比べて3.7倍(269%増)になったと言われています。eBay は Google Shopping の有料化には難色を示していたと言われていますが、商品リスト広告の強烈な伸長の背景には、結果として eBay の積極的な投資が影響していると言っても言い過ぎではないかもしれません。
eBay の判断に学ぶ、Eコマースリスティングの広告運用
eBay の発表した調査報告には、SEMのエキスパート達からネガティブな反応が殺到しましたが、年間数十億円という、決して少なくない費用を掛けている広告に対して、その投資対効果を測っていこうとする姿勢は尊重するべきだと思います。この調査にかけたであろう少なくない費用は、外部的には検索連動型広告の投資対効果を疑問視するという、余り生産的でないアウトプットとして表現されましたが、おそらく内部的には、キーワードと広告の自動生成(サイト内検索や検索クエリの自動入稿など)の限界も同時に指摘されていたのではないでしょうか。
常識的に考えて、億を超えるキーワードを手動で管理することは不可能です。「eBay の広告戦略は酷い。適切な広告を出すべきだ!」と指摘するのはかんたんですが、自動化しないとどうしようもないほどの規模の広告をマネジメントしなければいけない企業にとって、その実現は容易ではありません。今回の調査は、検索意図に沿った広告を適切かつ自動的に生成する手法の一つとして、データフィードの広告である商品リスト広告という代替案を有利に活用し続けるために、検索連動型広告の有用性を疑問視することで煙幕を張った、という穿った見方すら連想してしまいます。(なぜこの発表が必要だったのか分からないと考える人も多いようです)
eBay の商品リスト広告の投資規模から考えて、現在ではおそらく、動的リマーケティングやDSA(動的検索広告)なども積極的に活用していると考えられます。
RKG が 2014年7月に発表した調査によると、RKG の顧客であるEコマース関連の広告主のリスティング広告費の内訳は、3割近くを商品リスト広告が占めており、ブランド検索以外では約5割を占めるほどになっているようです。
観測範囲はかなり偏っているものの、中小のECサイトでは、広告経由クリックのかなりの割合を商品リスト広告が担っているという示唆ではあると思います。
データフィード関連の広告は、SKU(商品単位)レベルでしっかりとウェブページを作り、マーチャントセンターに代表される外部データベースへ更新するデータフィードを適切に管理していくことで結果的に広告の鮮度や精度が担保される仕組みです。
これまでのように、リスティング広告のキーワードの生成やマネジメントに時間をかけるのではなく、自社サイトのユーザビリティや情報管理に時間をかけることで、商品リスト広告、動的リマーケティング、動的検索広告などといった集客施策も連動して良くなっていく世界が拡がりつつあります。
eBay の判断は、ECサイトの集客の現在形を示唆してくれているのかもしれません。
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