業務の範囲が拡大していく広告運用という仕事
「広告運用」という業務が単に広告を入稿・配信・レポートするだけの範囲に留まらないことは、現場で仕事をしている運用者の方が一番身に沁みて理解されていると思います。そういった認識は、近年の運用型広告の市場の伸びと、それに連動したメディアの収益構造の変化によって、徐々に経営層にも徐々に広がってきているのかもしれません。例えば、IAB が主催している広告運用を対象としたイベント「Ad Operations Summit 2013」で最も注目を集めたセッションの一つが「The New Age of Ad Operations (広告運用の新時代)」でした。IABのサイトに当日のハイライトが書かれています。
"The New Age of Ad Operations参考:IAB Ad Operations Summit 2013 Highlights
Kelly Roark, Vice President, Interactive Sales and Business Development, Scripps Network, discussed the idea that ad ops is now “all ops”—all-encompassing and about much more than implementation. Ad ops teams should be driving the direction of their companies. She also noted the need to keep talent engaged by cross-training and helping them see and understand their role in the big picture."
Scripps Network のインタラクティブセールス・ビジネス開発部門の副社長である Kelly Roark は、広告運用という仕事はもはや「全運用」(本来の実行部隊という業務を超えて、あらゆるものが業務の対象になっている)だという議論を展開した。広告運用のチームは会社を引っ張っていく存在であるべきで、だからこそ部門を超えた研修や大局的な視野をもってもらうように盛りたてる必要があると指摘した。
このサマリーを読む限り、Scripps Network のようなメディア企業において、広告運用は非常に重要な業務として認識されていることが分かります。
以前書いた「Ad Ops Summit 2013 から学ぶ広告運用に必要なこと」にも引用した、Ad Operations Summit 当日の以下の発言も、上記のサマリーを裏付けています。
"The ad operations role has evolved tremendously. Simply among those who took part in the session, we generated a list of 20 responsibilities that now fall onto ad ops. It’s no longer just about doing QA, inventory management, trafficking, reporting and, campaign management. Ad ops now has direct responsibility for technology, vendor management, creative and developers, yield management, programmatic, block lists and change management around new sales structures, ad technology and processes."参考: The New Age of Ad Ops | The Op-Ed
広告運用という役割は途方もない発展を遂げました。この間のセッションに参加したメンバーで数えただけでも20ほどの広告運用の職責を挙げることができます。広告運用はもはやQA(品質保証)、在庫管理、広告配信、レポートやキャンペーンマネジメントだけに留まらず、テクノロジーそのもの、ベンダーマネジメント、クリエイティブや開発、イールドマネジメント、プログラマティック、ブロックリストの作成や営業の組織編成、プロセス管理などあらゆる分野に直接的な責任を負っています。
Scripps Network のようなメディア企業の多くで、デマンドサイドとサプライサイド両方の業務が発生しています。特にイールドマネジメントはメディアの収益性に直結することから、デマンドサイドが想像する以上に運用チームに多くの業務が発生しているはずです。上記の発言は、ここ数年で加速しつつあるメディアの収益構造の変化が、メディア企業の組織構造にまで直接的に影響を及ぼしていることを示唆しています。
また、少し前のものですが、The Op-Ed が 2012年Q4(10−12月)の広告運用の実態についての調査でも、既に同様の結果が指摘されています。
"An overwhelming majority of respondents told us that their ad ops team brings more value than just strictly trafficking. This is especially important in today’s ad ops environment, where a blending of ad ops and sales is more commonplace due to the rising emphasis on RTB and technology based ad sales."
大多数の回答者が、広告運用のチームは単なる配信業務を超えた価値をもたらしてくれていると回答しています。これは、RTB の伸長やテクノロジーを前提とした広告営業などによって運用と営業のブレンドが当たり前になってきた現在の広告運用の環境において、特に重要な事実です。
年々キャッチアップが大変になっていく
カバーする範囲が広がり、重要さが増していくに従って、あとから業務をキャッチアップするのは一般的には困難になります。先ほどの The Op-Ed の調査でも、「自社の広告運用チームは十分に教育され、新しいテクノロジーやプラットフォームについていけているか?」という設問には、半数以上にあたる53.3% が「そうではない」と回答しています。デジタル領域のトレーニングと採用は近年かなり大きなイシューとなってきており、日本でも苦労している企業が多いのではないでしょうか。
大きな企業であれば分業化が進んでいる一方、 Kelly Roark が指摘するような経営の根幹にまで関わる社員を育てることとのバランスは取りづらくなります。アウトソーシングを推進した結果、実務が分からないまま競争力を失ってしまうことも懸念です。
現場の社員からみても、トレーニングやキャリアデベロップメントはとても気になる問題です。広告運用の仕事の平均勤続期間は15ヶ月(Ad operations employees have an average shelf life of about 15 months per hire)とも言われていることから考えても、決して楽な仕事ではありません。特に未経験でこの分野に入ってきた方にとっては、飛び交う言葉が難解すぎて、どうしていいか分からないことが多々あるのではないでしょうか。
あるインターンに向けた、17のアドバイス
未経験の人材をどのようにプロフェッショナルにしていくかという課題と、新しい成長産業の中でどのように自らの価値を発揮していくかという問題は、経営側と従業員側の視点の違いだけで、共通の問題だと言えます。OJT中心に実践で慣れていく企業もあれば、細かなワークフローを策定して品質管理を重視する企業もあります。どのような方法で進めるにせよ、習熟のための近道は「ゲームのルールを理解する」ことにあるのかもしれません。
IPG の一員である メディアエージェンシーの UM(Universal McCann)で広告運用担当役員を務める Mitchell Weinstein さんが、「Advice For An Ad Ops Intern(ある広告運用のインターンに向けたアドバイス)」というタイトルで、17のアドバイスを公開してくれています。これから入ってくるインターンのために、あらかじめ「こういうことを伝えよう」と書いたものです。1年前の記事ですが、とてもよい内容だったので抄訳します。出典:Advice For An Ad Ops Intern
インターンの彼に会ったら、「Lay of the land(状況を理解する)」という話をしたいと思う。私は通常、新入社員には我々の業界がどうなっているのかという概要を伝え、全体像を理解してもらうように努めている。人は、自分が何のためにこの仕事をしていて、自分の仕事が企業の目的にどのように沿っているのかを理解したときに、よりよいパフォーマンスを発揮できるというのが私の信念だからだ。背景を理解することが大事なんだ。
それをシンプルに理解してもらうために、インターンの彼に伝えることを以下の17のリストにまとめてみた。
1. 広告代理店には2つある。広告を作る代理店と、その広告をしかるべき場所へ設置する代理店で、我々は後者だ。
2. 我々はフルサービスの代理店だ。TV放送、紙媒体、デジタル、OOH、メディア戦略など、非常に広範囲のサービスを提供する。これらの中で(今回のインターンで)注力するのは、デジタルだ。
3. UMは素晴らしい場所だ。君がここで受ける教育は、今後のキャリアにとってかけがえのないものになるだろう。ここにいることが幸運で、さらに言うとアドテクの最前線であるデジタルのチームに参加できることは非常に幸運なんだということを知ってほしい。
4. 我々のチームの仕事は、プランニングされたメディアを確保し、設計通りに確実に実行することだ。かんたんに聞こえるかもしれないが、これはとても難しいことなんだ。
5. 我々のチームの仕事は、クライアントにとって新しくて効果的なテクノロジーを探し当て、どれが適切なのか評価することでもある。これは非常に困難であると同時に、楽しくやりがいのある仕事なんだ。
6. 大事なことは、自分のすべての仕事に細心の注意を払うことだ。小さな違いが、キャンペーンの成功に大きなインパクトをもたらしうるからね。
7. 代理店の組織構成で混乱することがあると思う。大きな代理店の多くはたくさんの部門を抱えていて、それぞれの関係はとても複雑だ。だいたいの概要は初めに伝えるが、現時点で気に病む必要はない。どこかで組織がガラッと変わることだってある。
8. 我々はメディアパートナーから広告を仕入れている。メディアパートナーは、パブリッシャー、ベンダー、セルサイド、サプライサイドなどとも呼ばれる。どれも互換性のある言葉だから、同義語だと思ってもらっていい。
9. メディアパートナーには3種類ある。1)自社の保有媒体として運営しているもの 2)多くのサイトから広告在庫を仕入れてまとめているもの 3)アドエクスチェンジを通じて配信できるもの それぞれ重なる部分があるが、それぞれの違いはとても重要だ。
10. デジタルメディアは第三者から広告が配信される。広義の第三者配信にはたくさんのメリットがあって、効果や効率を増加させることができる。このコンセプトを理解するためにたくさんの時間を費やす必要があるが、まずはメリットがあるという事実を押さえておいてくれ。
11. これからきっとたくさんのバズワードや三文字略語を聞くことになるだろう。プログラマティックとかプライベートエクスチェンジ、RTB や DSP、DMP や ATD などだ。この業界の人はみんな話すのが早いし、一日中こういった単語で話している。でも驚く必要はないし、全部覚える必要はない。まずは目の前の仕事に集中しよう。
12. いくつかのカンファレンスに出てみよう。ただ、事前にどれに行くかは話して決めよう。とにかくたくさんのイベントがあるから、大切な時間を有効に使うために、適切なイベントを選択しよう。
13. この代理店にはたくさんの優秀な人がいる。ここで働いている間に、できる限りたくさんの人に会ってほしい。
14. いろんな人が売り込みに来る。いい営業からは多くのことが学べる。彼らのプレゼンを注意深く聞いて、質問してみよう。その製品の本質を考え、クライアントにメリットがあるかどうか判断しよう。すべての製品がクライアントにフィットするわけではないが、すべてのミーティングは君の知識を増やすためのいい機会となるだろう。
15. ランチに連れて行ってくれたり、何かをくれた人には必ず御礼を言おう。君がその御礼に何かをする必要はない。ただ感謝を表現すればいい。
16. 我々は Google や Facebook、Hulu、Twitter などを始めとして、たくさんのクールな企業と仕事をしている。最初は楽しいし、興奮すると思う。でも、インターンを進めていくにしたがって、彼らよりも、まだ誰も聞いたことがないような企業との仕事に一層の興奮を覚えるはずだ。(それが次の Google かもしれないしね!)
17. あとは、AdExchanger を毎日読むことだね。
※フォントサイズや太字はadmarketech.による編集です
このアドバイスは、広告運用に限らず、多くの仕事に共通して適用できる知恵が含まれている素晴らしいアドバイスだと思います。そして、現場を熟知しているからこそ出てくる言葉(「小さな違いが、キャンペーンの成功に大きなインパクトをもたらしうる」とか!)には、耳を傾けざるをえない信頼感があります。
Mitchell さんのような素晴らしい上司や先輩があなたの職場にもきっといると思います。これからのキャリアでたくさんの素晴らしい出会いがありますように。
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