「State of AdOps」は、現在急速に伸びている運用型広告の成長を支え、実際の現場で価値をつくりだしている広告運用(AdOps)のスペシャリストたちに焦点を当てるインタビューシリーズです。広告運用の最前線にいる方々が感じていることを語って頂くことで、運用型広告の輪郭を少しでも捉えることができればと考えています。
※過去の記事はこちらから。
第8回は、最年少東証一部上場などで注目されている株式会社リブセンスの事業推進部でご活躍されている岩崎亮さんにインタビューをさせて頂きました。「お祝い金」の仕組みで人材メディアに新風を吹き込んだ「ジョブセンス」をはじめ複数のメディアを運営されている企業での広告運用は一体どのようなものなのか、現場で日々実践されている生のお話をお聞きしました。
# インタビューは 2013年10月某日に行われました。
何はさておき、計測の環境を整えることから始めた。
現在のお仕事に就かれるまでの経緯と、具体的な業務内容をお聞かせ下さい。
リブセンスの岩崎亮と申します。リブセンスはアルバイト求人サイトの「ジョブセンス」、転職求人サイトの「ジョブセンスリンク」、賃貸不動産情報サイトの「door 賃貸」などを運営している企業で、現在は各メディアを横断してマーケティングを推進する事業推進部に勤務しています。
リブセンスに入社する前は人材会社で働いていました。そこで子会社の立ち上げを中心にモバイル販促のオペレーションの責任者として約4年務めました。そこでいろいろ検討した結果、リブセンスに移ることになりました。
転職活動では、主にインターネット・IT系企業を中心に探していたのですが、IT企業でも社長や現場がプロジェクトマネージャーの企業が多く、漠然とした違和感を感じていました。一方で、リブセンスは創業者たちが学生の頃からメディアを自社で構築してきたという経緯があり、面接での雰囲気も自分が想像していたITベンチャーのカルチャーがあるような気がしました。
入社してからは、ジョブセンスの広告運用を経て、現在の各メディアを横断した部署である事業推進部で、メディアの運営に関わるマーケティング全般を担当しています。広告でいえば、アフィリエイトやバーティカルメディアアドネットワーク、DSPなどが含まれます。また、広告ではないですが、先日発表があったPtmind社のアクセス解析「Pt engine」なども広告へフィードバックするという意味では含まれますね。
リブセンスが正社員求人サイト「ジョブセンスリンク」のスマートフォンサイトにおいてアクセス解析ツール「Pt engine」を採用
http://www.ptmind.co.jp/corporate/news20131009.html
広告運用で気を付けているポイント、ポリシーなどはありますでしょうか?
色々とあるのですが、何はさておき、判断のベースとなるコンバージョンの計測をしっかりしようという取り組みから始めました。運用型広告に限らず、費用がかかっているものは判断軸がブレてしまうと身動きが取れなくなってしまいますので、計測の環境や構造を改めて見直して、間違いがないかどうかを確かめました。
具体的には、再読み込みしたら重複コンバージョンとしてカウントされてしまう問題や、アクセス解析でも滞在時間や離脱の定義などを厳密に把握する、計測パラメータをリンク先URLにきちんと記載するという部分です。費用対効果の算出に関わる部分はそのまま運用方針に直結しますので、まずはここを丁寧に把握することからスタートしました。計測さえしっかりしていれば、運用でチャレンジできるようになりますので、一旦整理がついたあとは、最新のテクノロジーを積極的に試すことができるようになりました。
新しいことをトライするための情報収集などはどうされていますか?
事業推進部内で役割分担をしていまして、それぞれの担当範囲について自分たちで積極的に情報を取りにいくようにしています。例えば分析の担当者であれば最適化の数理モデルについて勉強会やセミナーに参加したり、広告の最新情報であれば専門の方のブログや Facebook も参考にしますし、実際にお会いして色々とお話を聞くようにしています。
データフィードに伸びしろがある。
現在の施策で特に注力されている分野はどのあたりでしょうか?
投資している金額という意味ではリスティング広告が最も大きいのですが、現在はリスティング以外で伸びしろや工夫のしがいがあるところに力を注いでいます。
具体的には、弊社のメディアへのトラフィックの内訳を見ると、バーティカルメディア(業界別のサイト)の割合が比較的大きいのですが、このバーティカルメディアへ情報を送るデータフィードの最適化に取り組んでいます。「ジョブセンス」でいえばいくつかのアルバイト求人情報メディアにデータフィードを送って情報を更新するのですが、案件毎に獲得単価を設定出来たりするので、「ジョブセンス」における採用率や採用単価を考慮して単価設定したり、職種や地域での単価調整をしたりしています。また、上位掲載ロジックについても CTR や CVR を加味する等メディアによって異なるため、それぞれの仕様を把握してから原因を調査し、最適化を進められる仕組みを整えています。
リスティング広告のように投資金額が大きいからわずかな改善幅でも利益が大きいというものもありますが、投資規模が少ないからといって何もしないというのではなく、「少ないからこそまだまだ伸びしろがある」と考えるようにしています。
メディア運営をしている以上、費用対効果や CPA というのはどうしても設定せざるを得ません。CPA が限られているからこそ、合わせるために無駄を排除していくという考え方だけでなく、どんどん新しいところを開拓していくようにしています。そうしないとすぐに頭打ちになってしまいますから。
データフィードの最適化は大変だと思うのですが、どのように運用されていますか?
各メディアに送るためのフィードの仕様はメディアごとに異なるので、自社のデータを各フィードに変換するツールは社内開発しています。ある CSV を吐き出したら、それを各メディアの仕様に合わせて自動振り分けするようなツールですね。
例えば弊社の賃貸不動産情報「door 賃貸」だと、自社の管理物件とそれ以外の物件(提携している他企業が管理している物件など)で利益率が異なるためおのずと限界CPAが異なりますから、フィードの送信ロジックを変更する必要があります。また、Criteoさんのようにフィードの工夫ができる広告であれば、自社の管理物件だけを広告に表示させるようにすることで限界CPAを引き上げて、その分積極的に出稿する、というような運用もしたりしています。
データフィードには有料のものも無料のものもあって、それぞれにやるべきことが違いますから、まだまだ工夫のしがいがある分野だと考えています。あとは、AdWords の商品リスト広告はまだリテールのみに提供されている商品ですが、今後サービスにも開放されればもっと盛り上がってくるのではないかと思いますね。データフィードに取り組みはじめて思うのは、「取り扱い説明書を読まないでゲームには勝てない」ということです。読まなくても運用はできるかもしれませんが、継続的に闘っていくのは難しいと思いますね。
エンジニアには常にユーザーに目を向けていてほしい。
基本的にインハウスで運営されていらっしゃいますが、運用における外部のパートナーとの取り組みはどのような方針があるのでしょうか?
基本的にはぜんぶ自分たちでできるようにしています。ですが、統一化できない部分、変化が激しい分野はなるべく外部の協力を仰ぐようにしています。社内のエンジニアには、社内ではなく自分たちのメディアに来てくれるエンドユーザーに目を向けてほしいと思っていますので、自社開発したものが自分たちの価値を高めたりマーケットの中で競争力があるものなのかどうかを常に考えて判断するようにしています。競争力があればリソースを注ぐべきだし、ないのであれば外部にお願いして効率化した方がいいですから。
広告やアクセス解析でも同じ考え方です。例えばアフィリエイトであればプロバイダーに一定の手数料を支払わなければいけないですが、普通に考えて有力なアフィリエイターさんたちを自分たちだけで集めるのは無理があります。アクセス解析の Pt engine であれば、トラフィックにおけるスマートフォン比率がどんどん高まってきていますので、アクセスデータがいまいち信用しきれないスマートフォンに対して何とかしっかりとした解析の環境を整えたいのですが、そこで解析ツールを一から開発するのはナンセンスです。だから外部の力お借りしています。
最近の例でいえば、AdWords の品質スコアを定点観測するのにこれまでは AdWords Script を使って自分たちで集計していましたが、かなり手間がかかっていたので現在では TenScores というサービスを利用しています。
Tenscores: The Google Adwords Quality Score Tool
http://www.tenscores.com/
デジタルマーケティングだからこそアナログな部分を大事に。
そういったパートナー企業との取り組みで気を付けていらっしゃることは?
当たり前のことのようですが、自社運用が基本だからこそ、一旦お付き合いの始まったメディアや外部のパートナーさんとは良い関係を構築して一緒に頑張っていきたいと思っています。
例えば広告で言うとリスティング広告やディスプレイ広告の割合が大きいのですが、そういったプラットフォーマーの方々は自分たちのプラットフォームを通じた売上を上げるために営業していらっしゃいます。一方で、我々広告主としては広告費を使うことが目的ではなく、そこから収益を上げることが目的です。ここの利害関係をうまく一致させる方向に関係を持っていくことが大事だと思っています。
プラットフォーマー側の担当者にとっては弊社がクライアントですから広告費を増額すれば評価されます。我々は費用対効果が見合えば投資額を増やすことができる。そのためにはお互いのビジネスを理解して、どういった提案があれば双方がハッピーになれるのかを考えながら仕事を進める必要があります。単なる値引き交渉だけすれば話は止まってしまいますし担当者の評価が下がってしまうかもしれません。併せて相手へのメリットを提示することで、お互いが納得してパートナーシップを結べるのではないかと思います。
デジタルマーケティングだからこそ、ビジネスの構造を理解して、アナログの部分を大切にすべきだと思います。逆に言えば、我々のビジネスを理解した上で話してくれる会社さんとは、積極的に一緒に仕事をしていきたいですね。
高いレベルで切磋琢磨していきたい。
広告運用の現場について、今後の展望などがあればお聞かせ下さい。
弊社は「あたりまえを、発明しよう。」というコーポレートビジョンを掲げています。この達成のために重要な2つのことがロゴマークに込められているのですが、1つ目が何事にも「疑問(?)」を持つこと。2つ目は「雨垂れ石を穿つ」という故事成語になぞらえて、「徹底」して行動することです。小さな努力の積み重ねを徹底することによって成果を出すというのは、広告を含めたデジタルマーケティングの運用にとって大事な考え方だと思っています。
事業推進部のモットーも ”Operational Excellence” なのですが、徹底した改善の積み重ねによってオペレーションを確固たるものにすることによって、中ではなくて外を向くことができるようになります。仕事をしているとどうしても中を向いてしまいがちなのですが、外を向いていくということを意識して、ユーザーに近い位置で仕事をしていくことが結果的に今後につながっていくと思っています。
デジタルマーケティングの変化のスピードが早いのは疑いのない事実です。変化に対して中ばかり見ていては対応できませんから、日々のオペレーションを安定させて、外を見ていく時間を確保していかないと対応できません。もっと言うと、変化を作っていく側に立たないといけませんので。
同じように企業のマーケターとして現場で頑張っている方々に一言ありましたらお願いします。
事業推進部では Livesense Digital Marketing というブログを運営しています。
LIVESENSE DIGITAL MARKETING
http://marketing.livesense.co.jp/
このブログを始めたきっかけは、より現場に近い情報をマーケティングの現場で頑張っている方々とシェアしたいという思いがあったからです。
「◯◯のための10の方法」といったタイトルの記事はたくさんありますが、現場レベルでどうしたら良いかという実践にまで踏み込んだ記事は少ないと思います。マーケターが現場で実践している細部の工夫やアイデアに価値があると考えていますので、そういったものをアウトプットすることによって、デジタルマーケティング業界の事業推進部的な位置づけになれたらいいなと、そう思っています。
日本では事例は外に出したくないという風潮がありますが、個人的にはナレッジをどんどん共有することで、業界全体の底上げに少しでも貢献できればと。自分自身ももっと高いレベルで切磋琢磨していきたいと思っています。
本日は貴重なお話、ありがとうございました!
コメント