ブラックボックスな品質スコア
2005年に、それまでのキーワードステータスから品質スコアのシステムへ変更されて以降、品質スコアはAdWordsを語る上で(良くも悪くも)常に主役にいたように思います。
2009年に Google のチーフエコノミストであるHal Varian 氏が 品質スコアについて解説をしたことで、様々な俗説は一旦落ち着いたように思われましたが、先日(2013年7月末)に発表された品質スコアの表示変更でも、「品質スコアが変わった!」という問い合わせが多かったのか、ブログで再度説明がされるなど、リスティング広告に関わる人にとって、品質スコアは今でも最も敏感になるトピックの一つのようです。
Hal Varian氏の 品質スコアについての解説動画
Google卒業生が解説する品質スコア
品質スコアについて気になるのは日本だけではなく、アメリカでも同様です。先月(2013年7月)、元Googler の Frederick Vallaeys氏が Search Engine Land に投稿した品質スコアを詳細に解説した記事は大きな注目を集めました。品質スコアが導入された背景から実際の最適化のヒントまで丁寧に語られており日本のリスティング従事者にも有益な記事でしたので、著者である Frederick と Search Engine Land の了承を得て、翻訳版を掲載します。
元記事:
Quality Score Explained By A Former Googler
http://searchengineland.com/quality-score-explained-by-a-former-googler-166007
※ 以下はSearch Engine Land の承諾を得て上記の記事を日本語に翻訳したものです。
※ Following is reprinted with permission of Search Engine Land.
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品質スコアの進化
品質スコアの歴史について興味がない人でも、品質スコアがそもそもなぜ存在するのかや、Google が何に注目しているかには関心を持っていると思います。私が Google で働き始めた2002年頃は、品質スコアはまだ存在していませんでした。しかし、当時の Google が他のリスティング広告システムと比べて際立っていた理由は、広告を見るに値するかを判断する手法にありました。審査チームがすべての広告をマニュアルで確認していた上、システムがキーワードのクリック率 (CTR) をすべてのキーワードにおいて監視していました。CTR が0.5%を下回った場合は、そのキーワードは関連性が低いと見なされ無効にされていました。Google は"集団の叡智"を利用してユーザーにどの広告を見せるか判断させていたのです。
一方で、広告主が自身の設定したキーワードが無効にされてしまうことに不満を抱いていたので、一定の CTR を基準にキーワードを無効にするという仕組みは問題を抱えていました (もちろん、同じキーワードを大文字にした上で再登録することにより回避するという裏ワザを知っていたら話は別でしたが) 。ですので、我々はシステムを進化させることにしました。キーワードを無効にする代わりに “slowed”、 “in trial” 、そして “on hold” といったような新しいステータスを考案したのです。
これは、質が悪いとされる広告の掲載期間を少しだけ設けることで、広告主に関連性の低いキーワードを修正をする機会を与えることが目的でした。さらに、0.5%の CTR という基準を撤廃し、システムの柔軟性を高めました。しかし、それでも広告主が本当に使いたいキーワードは無効になってしまうことがあり、彼らを満足させることはなかなか難しい状況が続きました。
Google はこの問題を解決すべく、最小入札単価を導入しました。単純にキーワードを無効にする代わりに、関連性の低いキーワードに対して高い単価を支払うよう広告主に要求したのです。これにより、広告主はキーワードのクリック単価 (CPC) に対して高い単価を支払う意味がなくなり、関連性を高めるために最適化するかキーワードを削除するかを選ぶようになったのです。
現在のシステムでは、最小入札単価は First Page Bid と一体化されています。広告主が支払う価格と品質スコアの直接の関係を把握するのが少し難しくなっていますが、その関係は確かに存在します。
下記は品質スコアトラッキングツールを使い、平均CPCと品質スコアがどう関係しているかを示した例です。この関係性は、品質スコアが CPC に与える影響について書いた最近の記事でも取り上げています。
品質スコアが広告ランクに与える影響
Google が AdWords Select を開始して、CPM基準の料金体系からCPC基準の料金体系に移り始めた頃はCPMプログラム (当時はこれが AdWords と呼ばれていました) の売上げなしにやっていくほどの余裕はありませんでした。当時 Google は小さな会社であり、Yahoo!/Overture は非常に手強い競合でした。そこで、売上の最大化を実現するため、次の簡単な式をもとにCPCプログラムの広告をランク付けしました。広告ランク = 上限CPC × CTR
これに少し注目してみると、広告ランクはCPM、つまりインプレッション単価であることがすぐにわかります。この式は単純ですが、AdWords というプログラムに力を与える素晴らしい考え方だったのです。広告主は広告がクリックされた時だけに支払いをし、CTRの高い広告が検索結果の上位に来るようになったため、ユーザーにはより関連性の高い広告が表示されるようになりました。結果として、Google はこれらの広告により最大限の収益を上げたのです。
現在では広告ランクの式は非常に複雑になっていて、ページのトップに表示されるための閾値やランディングページの要素なども考慮されています。しかし、本質的には上述の原理が適用されます。Google がより関連性の高い広告を表示すれば、広告主は多くのクリックを得ることができ、ユーザーを満足させ、収益を上げることができます。これを達成するために重要となる要素が CTR なのです。
品質スコアにとって CTR が重要であることは、SEO にとってTF-IDFが重要であることに少し似ています。有料、無料に限らず検索のランキングは無数の要素によって定められていますが、これらの長年存在してきた原理はいまだに重要度が高いのです。80対20の法則で言うとこれが80%の要素であり、最初に注目するべきものです。
品質スコアの要素
CTR が品質スコアの主な判断材料となっていることを説明しましたが、Google が CTR についてどう考えているかを知っておくのも大事です。自分のアカウントで確認できる CTR に影響するものは、デバイス、ネットワーク、またはページ上での広告の位置など、様々です。ということは、自分のアカウントで確認できる平均CTRは、Google が品質スコアを設定するために使う CTR とは別物なのです。広告主にとって公平な場を提供するため、Google は CTR をさらに細かく分類して評価しています。
例えば、CTR をデバイスの種類によって分けて確認し、モバイルの実績が PC の実績の妨げにならないようにしています。また、ディスプレイネットワークと検索の CTR を分けています。通常はディスプレイの CTR の方が極めて低いので、それによって検索における品質スコアが影響されないようにするためです。
また、Google はアカウント内にあるキーワードが検索クエリと一致した場合、CTR を優先して見るようにしています (これをキーワードマッチタイプの「完全一致」と間違えないよう気をつけて下さい) 。また、ページ上の広告数や広告の位置をもとに CTR を正規化しています。
Google は新しいアカウント、新しいキーワード、そして新しい広告に至っては、CTR のデータ量が統計的に有意になるまで推測しながら動き、下記の図が示すようにCTRを段階分けしています。
見ての通り、CTR の評価はアカウント、キーワード、そして広告の3段階に分かれています。これらの要素がすべて秘密の式に組み込まれ、キーワードレベルの品質スコアとそれをアカウント内で表す1から10までの数字が求められるのです。
新しいキーワードの品質スコアがどう設定されているか
キーワードがアカウントで新しく追加された際、そのキーワードと広告テキスト (上の図の3) は過去の実績がないので、品質スコアは主にそのキーワードを設定している全てのアカウント、つまりシステム全体のデータが基準となります。それが、特定のアカウントにおける過去の広告実績データと融合されます。これらの要素の品質スコアが良ければ、新しいキーワードの品質スコアも初めから良い数字である可能性が高いのです。仮に、ユーザーが2つアカウントを持っていたとすると、アカウントレベルの品質スコアが高い方は最低入札価格が低く表示されるはずです。ドメインを2つ所有していれば、品質スコアが高い方のドメインを使うと同じ結果になるはずです。
キーワードごとの広告の実績などといった詳細なデータをシステムが取得した後は、この情報をもとに品質スコアが定められるようになります。これが、優れたアカウント構成と、広告グループを関連性の高いキーワード同士で分けて効果のある広告テキストを作れるようにすることが重要な理由です。
他に関係する要素
Google のチーフエコノミストを務める Hal Varian氏によれば、品質スコアはCTR の他に「関連性」を考慮すると言います。しかし、それはどういうことでしょうか?これを一番わかりやすく理解する方法は再び CTR を基準に考えることですが、つまりは CTR を使って1から10までの品質スコアを出力する代わりに、ユーザーが検索をした時点でその検索内容と広告の関連性を判断して CTR を予測するということです (Google の品質スコアは CTR を個々の広告とクエリにより予測するシステムです) 。詳しくは以下の例をご覧ください。1. ユーザーの検索に他の単語も混ざっていたか。そして、それは自分の広告がクリックされる確率を高めるものであるか。例)job (仕事) に関するウェブサイトを持っていて [jobs] というキーワードをもとに広告を出したいのであれば、誰かが “Steve Jobs” と検索してもその広告は恐らく関連性が低い。
2. ユーザーがいる場所は予測CTRと関連性があるか。例)アメリカで事業をしていて、検索者がベルギーにいたとすれば、その人がわざわざ遠くにある事業が出している広告をクリックする確率は低い。
3. 時間や日にちが予測CTRを影響することはあるのか。例)Google は特定の広告が火曜日にクリックされにくいという情報を持っている可能性がある。
このような要素は Google がリアルタイムで品質スコアを割り当てることを可能にし、特定のクエリに対して適切な広告ランクを設定することができます。この他にも「関連している要素」はたくさんあるかもしれませんが、そのすべては Google が特定のクエリに対して持っている情報を使って、広告がクリックされる可能性を予測するという原理に基づいていることは知っておいて下さい。
これらの要素の透明性が低いのはもどかしいかもしれませんが、関連性という部分は広告主に自動的に良いクリックを与え、悪いクリックを排除する手助けをしてきました。
ランディングページの品質スコア
ランディングページは品質スコアを判断する要素としては最も新しいものの1つです。ランディングページの質 (LPQ) はユーザーを騙して広告をクリックさせる悪質なサイトに対応するために導入されました。このようなサイトの CTR は高いですが、ユーザーエクスペリエンスは低いです。今では LPQ で品質スコアを上げることが可能になったため、広告主はこれに一層注目するようになりました (恐らく必要以上に) 。広告の CTR は品質スコアの要素としては LPQ より重要で、広告主が最適化に努めるべきところです。1つのキーワードにつき1つのランディングページを作り、ページにキーワードを表示させることにより LPQ のスコアを上げようとする広告主がいるという話を時々聞きます。これはおそらくやり過ぎです。Google は言葉の関連性を理解することに長けているので、すべてのパターンをページに含む必要はありません。
私が個人的にお勧めするのは、直帰率と滞在時間に注目することです。これは、Analytics を利用すれば AdWords で直接確認できるようになります。高い直帰率や短い滞在時間は、ユーザーにとって関連性の低いキーワードを探し出す手がかりになります。
アカウントを正しく最適化する
品質スコアの最適化とはつまり CTR の最適化であるということは、もうお気づきかもしれません。問題は、適切な CTR で最適化ができているかどうかです。例えば、Google は特定の CTR がどのように品質スコアを影響するかを判断するのに順位の正規化を行うため、Google のプレミアムポジションに表示されている15%の CTR の広告は、検索結果の右側の最後に位置する3%の CTR の広告より劣っているかもしれません。さらに、どのキーワードや、どの広告グループが最も最適化を必要としているかを判断するために、インプレッションで重み付けされた品質スコアも確認しておくべきです。AdWords Scripts で計算を自動化するスクリプトをシェアしておきましたので参考にしてみて下さい。
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以上です。いかがだったでしょうか。
私自身も仕事で品質スコアについて触れるときには説明に苦労することが多いですが、個人的に、地味に一番伝えるのが難しいなと思っているキーワードの「マッチタイプ」と、検索クエリとの「キーワードマッチ」の違いが明確に説明されていたので、非常に納得感を持って読めました。
品質スコアがなぜ登場するに至ったかに思いを巡らせると、アカウント設計や最適化を行うための基本的な考え方を改めて確認できると思います。少しでもご参考になれば幸いです!
2015年8月2日更新:
2015年7月29日の更新によって、品質スコアの表示に関する記述が現在と違っていますのでご注意下さい。
Starting today, we will be updating how we report 1-10 Quality Scores for keywords (Google+)
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