「State of AdOps」は、現在急速に伸びている運用型広告の成長を支え、実際の現場で価値をつくりだしている広告運用(AdOps)のスペシャリストたちに焦点を当てるインタビューシリーズです。広告運用の最前線にいる方々が感じていることを語って頂くことで、運用型広告の輪郭を少しでも捉えることができればと考えています。
第6回は、社是「ひねらんかい」が有名な大手インターネット広告代理店である株式会社セプテーニのプロダクト本部SEM部でご活躍されている、シニアSEMコンサルタントの田原晴加さんに運用広告の現在についてお伺いしました。
# インタビューは 2013年4月某日に行われました。
自動入札ツール担当からコンサルタントへ
現在のお仕事に就かれるまでの経緯と、具体的な業務内容をお聞かせ下さい。セプテーニに2009年に新卒で入社して、現在は5年目になります。入社当初からリスティング広告を担当する部署ではありましたが、お客さまに直接伺う営業やコンサルタントではなく、システム・ツール周りを担当する部署がキャリアのスタートです。ツールというのは自動入札ツールのことを指しますが、当時は海外製が主流で代表的なツールの一つを担当していました。
1年ほどツール周りを担当した後、現在の仕事であるコンサルタント業務に携わっています。リスティング広告では運用からキャリアをスタートすることが多いと思いますが、ツールやシステム担当を経てコンサルタントになるのは珍しいケースかなと思います。
ツール側から見たリスティング広告は、最初どのように映ったのでしょうか?
当時は自動入札ツールがずいぶんと注目されていた時期でしたが、現在も続いている、Yahoo!リスティング広告(現在のYahoo!プロモーション広告)や Google のAdWords広告など、複数のプラットフォームをひとつのシステムで統合管理するというトレンドを入社してすぐに知ることができたことは、今から思えば幸運でした。
ツールを知る上では海外、特にアメリカが先行していましたから、日本だけでない視点を早くから獲得できたのは大きかったです。
自動入札ツールの導入が大変だったとお察しします。ご苦労された点などはありますか?
まずは新卒で何も知らないところからスタートでしたので、自動入札ツールに何ができるのか、どういったところがメリットなのかを知るところから始めました。ただし、実際に運用をしていなかったので、運用側がツール導入にあたって何が必要なのかを頭では理解していても体感として理解しておらず、社内やお客さまと意見がぶつかることも多くありました。
例えば、既に稼働しているアカウントに自動入札ツールを導入するには、トラッキングURLをツール側で発行してから各アカウントへ再入稿が必要になりますが、その一連の作業で運用側にどれだけの負担が発生するのか、広告の審査や配信でどのようなことに気をつけなければいけないのかといった基本的な部分への配慮が足らなかったと思います。
また、弊社ではもともときめ細かく運用し最適化を追及していくことで、お客さまの望む結果を出しており、そこに自信を持っているコンサルタントばかりなので、自動入札というシステムや投資対効果に社内でも異論があったことも背景としてあるかもしれません。振り返ってみて、広告運用を知らずに自動入札ツールを提案するという、今から考えればかなり難しいことをしようとしていたなと思います。
ご苦労があった一方で、学んだことはありましたでしょうか?
自動入札ツールを提案するには、技術的な側面を理解する必要があります。APIやデータフィードの概念もその時に初めて知りました。これは今の仕事でも役立っています。
あとは、今でもそうですが、リスティング広告の運用は本当に大変ですので、入社から1年間はツール担当という一歩離れた視点から運用の現場を眺め、その後実際にコンサルタントとして現場へ入るというステップがあったことは、リスティング広告の業務全体を理解する上でとてもスムーズでした。
人にもよりますが、何も分からない状態でお客さまの前にいきなり立つのは正直なところ厳しいと思います。プラットフォームやお客さまのことはもちろんのこと、広告やインターネット業界、エクセルやパワーポイント、メールの書き方に至るまで、新人がキャッチアップしなければいけないことは山ほどありますし、毎月のように新しいことが起こります。実際に、私がリスティング広告を始めたときよりも現在の方が学ぶ必要がある範囲が広くなっています。
1年間とはいえ、リスティング広告の業務がどのように回っているのか、どこが大変で、何がボトルネックで、何がレバレッジポイントなのか。そういったリスティング広告の現場のメカニズムを知った上で業務に入れたのは私にとっては非常によかったと思っています。
「いろいろと厳しいことも言ったけど、信頼していました。」
現在はSEMコンサルタントとしてのお仕事をされていますが、この仕事のどこに醍醐味を感じていらっしゃいますか?月並みですが、直接お客さまとやりとりできること、お客さまに感謝されることが一番の醍醐味です。先日、長く担当させて頂いたあるお客さまの担当を外れる時に、「いろいろと厳しいことも言ったけど、運用面は信頼していました。今までありがとう。」と仰って頂けたときは嬉しかったですね。非常に厳しいお客さまだったので、余計に嬉しかったです。
ツールを担当していた頃に「ツールを導入したのに提案されたとおりの動きにならない」というクレームを頂いたことがあり、当時は「私はやれることはすべてやっているのに」と思って憤慨したこともありました。
コンサルタントになった今から思うと、あの頃はどこか他人ごとというか、お客さまの顔も知らずに仕事をしていたなと思います。テクノロジーは進化しているかもしれませんが、実際にはビジネスは人と人との関係でできていると実感しています。
お客さまに感謝された具体的なエピソードがあれば教えて下さい。
先ほどお話した厳しかったお客さまですが、私がツール担当から異動してコンサルタントになった当初は、PCとモバイルで先方の管轄部署が分かれており、私はフィーチャーフォンを担当していました。私が担当になった頃は、スマートフォンが大々的に喧伝されはじめた頃で、少しずつフィーチャーフォンのシェアは下がり始めていて、プラットフォーム側からのアップデートもほぼなくなってきている状況でしたが、お客さまの事情でフィーチャーフォン用にご用意して頂いているご予算をかんたんにはスマートフォンへ寄せることができませんでした。
私の前の担当は「フィーチャーフォンでできることはぜんぶやった」と言っていて、私も引き継いだアカウントを見て、実際にそう思っていました。引き継いだあとになかなか提案を出せないでいると、お客さまから怒られました。時には「もう出て行け」と言われたり(笑)。
そこで、営業担当者と相談してやれることをもう一度洗い出して、とにかく毎週提案を持っていきました。出した提案に対して、毎週のように検証結果も持っていきました。今度こそ本当に「フィーチャーフォンでできることはぜんぶやった」状態ですね。例えばコンテンツターゲットのキーワードターゲットでドメイン名のテーマを作ったり、モバイルバナーの制作、トピックターゲットやインタレストカテゴリ、電話番号表示オプション、その他いろいろ、AdWordsのメニューでできることはぜんぶやったと思います。その結果、フィーチャーフォンのシェアが急激に落ちていく中で、かなりの結果を出すことができました。
女性のコンサルタントを増やしたい。
逆に、広告運用の仕事で課題があるとすればどんなところだと思いますか?運用の実務には直接関係がないことかもしれませんが、企業の女性のコンサルタントの活用に課題があるのではないかと思っています。他の広告代理店さんは、女性のコンサルタントってどれくらいいらっしゃるんでしょうか? 私の見ている範囲、つまりSEMの分野では、女性のコンサルタントは少ないように思います。
広告やネットの業界は一般的に決して女性比率は低くないと思います。弊社でも、SEMには入札・入稿・レポーティングなどを行うオペレーションと、対クライアントに提案を行うコンサルティングという2つのラインがありますが、オペレーションの部門は女性が圧倒的に多いです。でも、コンサルタントになると女性比率が高いとは言えません。
丁寧な運用やコミュニケーションという部分では、男性に比べて女性の方が細やかな対応が得意な人が多いのではと個人的に思っています。オペレーターに女性が多いのはそういう事情もあるかもしれません。あ、男性がガサツだというわけじゃないですよ(笑)。
例えばエステやコスメティクスなど、女性目線で語れる女性コンサルタントが担当させて頂いた方が良いお客さまもいらっしゃいます。ある化粧品通販のお客さまでは、女性コンサルタントをご要望頂きましたが、すぐにアサインできなかったこともありました。
女性のコンサルタントが増えない理由は何だと思いますか?
女性にとっては直面するライフイベント(結婚、出産、育児など)による時間の制約が出てくる中で、「同じ働き方」で「同じ仕事」をするのは難しい部分はあるかもしれません。
働き方の多様性と、チームで働くということ。
女性のコンサルタントが働き続けられるには、どうしたらいいと思いますか?多様な働き方や役割が認められるように変わっていけばいいと思います。この業界に限らないかもしれませんが。
運用型広告では深く潜れば潜るほど詳細な分析と丁寧な運用が価値になっていくので、オペレーションが単なるコンサルタントの業務請負では成り立ちません。チームとしてそれぞれの強みを生かしながらPDCAを回していくことが重要になります。お客さまのアカウントを実際に預かって運用しているオペレーターが、コンサルタントの役割に近づいていくイメージです。コンサルタントかオペレーターかではっきり分けてしまうのではなく、それぞれの得意分野を相互に補完して、チームとしてフォローし合いながら仕事を進めていけるような働き方が重要ですね。
この形を推進するため、宮崎県にあるグループ会社のMANGO(株)というリスティング広告のオペレーション業務を請け負うニアショア拠点と、東京のオペレーション部隊との連携強化を進めています。定型化した業務をアウトソースすることで東京のオペレーションの役割をよりコンサルタントに寄り添う形にシフトさせるためです。
また、コンサルタントとオペレーションの中間に位置するような職掌があってもいいのではないかなと思っています。これは一定以上のコンサルティング経験とオペレーション経験がないと上手く機能しないので経験を積んできた女性コンサルタント・オペレーターが活躍できる職掌ではないでしょうか。
女性の働き方を考えるのは、私個人だけでなく、会社としても取組んでいます。今年も女性の新卒がコンサルタントとして配属されました。その子たちにとっても、キャリアを積める環境を今以上に整備していきたいですし、私自身、先輩として憧れられるような働き方をしたいと思っています。
素晴らしいですね。もし最後にこれは言っておきたいということがあればぜひ。
女性である自分が直面している現実と向き合って来なかった部分と、自分なりに一生懸命頑張ってきたからこそ見えてきたものがあって、率先して新しい働き方を提案したい!という目標を年初に立てていました。同じような思いを持っている方がいらっしゃれば、ぜひお声をお掛けください!
株式会社セプテーニ
http://www.septeni.co.jp/
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