「State of AdOps」は、現在急速に伸びている運用型広告の成長を支え、実際の現場で価値をつくりだしている広告運用(AdOps)のスペシャリストたちに焦点を当てるインタビューシリーズです。広告運用の最前線にいる方々が感じていることを語って頂くことで、運用型広告の輪郭を少しでも捉えることができればと考えています。
第5回は、日本を代表するメディアレップであるサイバー・コミュニケーションズのイーメトリクス マーケティング本部でご活躍されている、広告運用といえばこの人ありと噂の織田慎弥さんに、運用広告の現在についてお伺いしました。
# インタビューは 2013年4月某日に行われました。
広告主様とメディア様の幸せを両立できないか。
現在のお仕事に就かれるまでの経緯と、具体的な業務内容をお聞かせ下さい。
現在は、サイバー・コミュニケーションズ(以下cci)の中のイーメトリクス マーケティング本部で、DSPのセールス、ディレクションを担当しております。
イーメトリクス マーケティング本部は、DSPを軸においた運用系広告商品の販売、販売後のアカウント/キャンペーン設計、結果のフィードバックや考察の提供、また、それを基にした改善までのPDCAを回していくことをトータルでサポートしている部署です。また、DSPに限らず、アドネットワーク、アドエクスチェンジ、ソーシャル等の分野まで幅広く扱っております。
私は2010年11月よりアドエクスチェンジの運用に携わっておりまして、その後リスティング広告の運用やDSPも扱うようになりました。前職はネット専業の広告会社でSEMやアクセス解析を行なっていました。
現在の仕事に至るまでの経緯ですが、広告会社時代に広告主様に近い立場で仕事をしていく中で、お客様のご要望をメディアプランや最適化案に落としこむことがバイサイドだけでは限界があると感じていました。メディアレップに立場を移すことで、広告主様が求めていることや実際の評価等をメディア様にフィードバックすることで、キャンペーンの成功確率とメディアの質を同時に上げていくことができるのではと考え、現在のメディアレップで働きたいと考えたのがきっかけです。
メディアレップはメディアに向く立場になると思いますが、実際にDSPを運用されるというのは珍しいですね。
普段は広告会社様と一緒に広告主様へ提案することが多く、受注すれば先ほどのPDCAをすべてカバーしますので、メディアレップの中でも珍しい立ち位置だと言えるかもしれません。
メディアレップが広告の運用を行う利点は、広告主様への価値提供と同時に、先ほど申し上げたようにメディア様にもフィードバックできる点です。
イーメトリクス マーケティング本部は社内で一番広告主様に近い立場にあります。例えば、当社 が米国OpenX Technologies社と提携して日本国内で提供しているアドエクスチェンジ「OpenX Market Japan」について言えば、担当部署であるメディア開発部と定期的にミーティングを設け、「(cciが提供している)OpenXをどう活用するか」「DSPでどのように買い付けするとメディアのCPMが上がるか」いった情報交換を行うことで、バイサイドの情報をセルサイドにフィードバックする体制づくりをしています。
メディアだけでなく、オーディエンスデータも同じです。DMPが注目されていますが、オーディエンスデータをDSPがターゲティングに活用していく流れも、やはり広告主様側を向いている組織の役割は重要です。
イーメトリクス マーケティング本部はiソリューション部というデータを集める部署とも定期的にミーティングを行っています。オーディエンスデータを活用した広告配信の結果を共有することで、単なる閲覧履歴を溜めるだけではなく「会員情報やデモグラフィック情報などが重要ですよ」といったフィードバックをするようにしています。
広告主側を向く組織があることが、メディアレップの本来の役割を強化していく、ということでしょうか。
そうですね。メディアレップというのは広告主様や広告会社様のご要望を伺い、メディア様側の空いている枠を押さえていくという仲介業としての役割を担っていますが、バイサイドの生の声がどうしても届きにくいという難しさがありました。
現在ではDSPを通じて様々なデータを取得できますので、そこで得た知見をデータやメディア様にフィードバックしやすい環境が整ってきていると思っています。そして、その結果、広告主様や代理店様にも広告効果というかたちで付加価値をつけてお返しできると考えています。
DSPがメディアレップの強みを強化する。
いま仰ったような取り組みは、やはりDSPがないとできなかったことなのでしょうか?
そうかもしれません。これまではアドネットワークのような運用というよりは幅広く掲載することを重視したものが多かったため、データを見ながら運用することが難しかった印象を受けています。
DSPが登場してよかったと思う点は2点ありまして、1つは、従来のディスプレイ広告では難しかった「運用ができる」ということです。データの取得、細かいターゲティング、外部のソリューションと繋ぐことができるなど、様々な動きが可能なことですね。
cciはもともとたくさんのソリューションを保有していましたが、DSPにそれを接続して機能拡張することで、メディアレップとしてのこれまでの強みをさらに活かせるようになったことが背景として挙げられます。
2つ目は、広告会社様や広告主様と密接な関係づくりを進めることができたことです。DSPは運用型の商品ですので、仮説→実施→検証→改善というPDCAサイクルを回すことが前提になるため、どうしてもお客様の懐に入らないと効果的な提案ができません。
取引は機械が瞬時に行いますが、運用するのは人です。様々なデータを扱い、分析と改善を繰り返していきますので、活用にはどうしてもノウハウが必要になります。結果として、代理店様や広告主様との密接な関係づくりがないとキャンペーンは成功しませんので、現在のような取り組みに繋がっているのではないかと思います。
今後はこういった動きは加速していくのでしょうか?
現在は実験的に私の部署で実施したかたちとなっていますが、徐々に拡大していければと考えています。もちろん、人員も増加予定です。
データマネジメントが強みになっていく。
現在のお仕事のどのあたりに面白さを感じていらっしゃいますか?
現在はDSPを軸に運用することが多いですが、メディアレップですので、アドネットワーク、モバイル広告、純広告など、トータルで扱えるのは非常に面白いと感じています。
例えば、DSPの運用から、行動履歴データなどのインサイトデータを取得し、それを基に純広告のプランニングやソーシャルの活性化などに繋げていく、という提案です。これまでの広告枠の単品売りから、キャンペーンの目的に合わせた総合的な提案に派生していき、それがうまくいった瞬間は本当に面白いですね。
インサイトデータを活用ということは、DMPも今後重要になっていきそうですね。
まさにそのとおりで、我々はこれまで多くのメディア様にご協力頂き、かなりの量のオーディエンスデータを保有していますので、DMPのような機能がもともとあります。
今後は、アドエクスチェンジが広告在庫をオープンな取引市場に開放しているように、このDMPの部分をオープン化することで、広告主様や広告会社様が自由に買い付けができるプラットフォームが登場してくるのではと予測しております。
我々としてもそこでセグメントの設計や、オープン化されたオーディエンスデータのDSPへの接続、それらの一連の流れをサポートすることがオリジナルな強みとして打ち出せていけるのではないかと考えております。
親会社の支援と扱えるDSPの種類はPC・モバイルに限らず豊富ですし、アドネットワークも「ADJUST」を含めて複数の取り扱いがあり、数多くのプラットフォームを扱っています。これにオーディエンスデータを絡めていくことができるのがメディアレップならではの動きだと考えています。
アクセス解析と広告が近づいていく環境が整ってきた。
一方で、現在のお仕事で感じてらっしゃる課題などがあればお聞かせ下さい。
これまでの単品売りではなく横断的な提案が主流になってきていますので、分析も当然横断的になります。そうなると、どうしても作業が細かくなり、データも多くなりますので、キャンペーンに関わる広告主様、広告会社様、制作会社様等、すべてのステークホルダーのリテラシーが問われます。
把握できるデータの量や種類が多すぎて、結局何を見ていいのかわからなくなり、「何となくよかったね」ですとか「最終コンバージョンはどうなの」といった評価で終わってしまうことがあるのは残念だなと思うことがあります。
先ほどは広告主様や広告会社様と密に連携するというお話をしましたが、それでもメディアレップという立場上、私が提案全体を取り仕切ることはありませんし、広告主様には広告主様の、広告会社様には広告会社様のご要望もありますので、意図しない結論に帰着することがあるのは、ジレンマを感じることがありますね。
もちろん、いつもそうなるというわけではなく、一部の広告会社様とは以前から密に連携していますので、多くのキャンペーンでたくさんの成功事例を出すことができています。
なるほど。実務面での難しさなどはありますか?
私は自身で運用するだけでなくディレクションを行うことも多いのですが、このディレクションが非常に難しいです。運用型広告はプラットフォームが多いので、運用担当者は必然的にプラットフォームごとに分かれがちなのですが、それぞれの運用を行う方々にいかに適切に指示を出すことができるか、いつもこれに腐心しています。
DSPはDSP、アドエクスチェンジはアドエクスチェンジ、リスティングはリスティングなど、どうしてもそのプラットフォームだけの担当になってしまうので、連絡や指示を間違えてしまうと、トラッキングの不備でデータが紐付いていない、必要なデータが取れていない等の事故に繋がってしまうので、ディレクションには細心の注意を払うようにしています。気を使う範囲が広いですね。
あとは、少し話がそれてしまうかもしれませんが、データの分析面でもまだまだ現場として課題が多いと感じています。
以前から課題だと思うのですが、アクセス解析のアナリスト広告のプランナーは分析の視点とゴールが微妙にズレていることが多いため、広告のリプランに繋がるようなアクセス解析レポートを出力することに苦労することがあります。
オーディエンスターゲティングを引き合いに出すまでもなく、キャンペーン自体を目的としたターゲットがいますので、どういう人に対して、どういうタイミングでどんな広告を出せばいいのか、そういったことが読み取れるレポートを出すことが大事だと思っています。そうすることで、どこで態度変容して、どのようにコンバージョンに至ったがわかり、次に繋がります。
アクセス解析のアナリストはウェブサイト内の動向にフォーカスした分析をすることが多いですし、広告マンは分析が必ずしも得意ではありません。「アトリビューション」という言葉が出てきたことによって、この2つをようやく繋げることができる環境が整ってきたと思いますし、お互いにどうすればいいか、議論できるフレームワークができてきたと考えています。
オリジナルなものを提供しつづけたい。
今後のアドテクノロジーの分野の展望をお聞かせ下さい。
あくまで個人的な意見ですが、DSPの使われ方が大きく二手に分かれていくのではないかと考えています。
一つは、最終コンバージョンをコミットするような、CPA重視のタイプ。コンバージョン課金のようなタイプで出てくると思います。ここになると、アフィリエイトに近いやり方ですね。一部のトレーディングデスクもそういった動きを取ることになるでしょう。
もう一つは、CPAだけではなく、広告を横断的に分析していき、効果を正しく評価していくモデルです。cciはどちらかといえば後者を志向していますし、コンサルティングを強化していくことで、アトリビューションを含めてユーザーの行動を分析し、アクションにつながる広告を出していけるような方向へ進んでいくと考えています。
先ほどお話しした、データのオープン化に期待する理由も、その一つです。ビッグデータ時代だと世間では騒がれていますが、オーディエンスデータで利益を上げている事業者はまだまだ少ないですし、データの整備や供給にコストをかけすぎると配信も含めたトータルコストで割に合わないのではというもっともらしい意見もあります。
それは、評価指標そのものが間違っているのではないかと個人的には思っています。どのオーディエンスがいいのか、態度変容に影響を与えた広告はどれなのか、マルチにとっていくことで適切な評価をすることが当たり前になる文化を目指していきたいですね。
そのなかで、織田さん個人はどのような役割を果たしていきたいと考えていらっしゃいますか?
オーディエンスデータの設計やメディア様とのコネクションなどは他にないメディアレップならではの強みですので、適切なデータセグメントに対して適切な広告を出し、その結果をメディア各社へフィードバックすることで、新しい広告枠やターゲット手法が生まれていく、そのような関係者すべてにメリットがあるようなオリジナルの広告商品を作っていきたいと考えています。
最適解は、おそらく100社あれば100通りあるのだと思います。それぞれの企業様ごとの勝ちパターンを、オーディエンス目線とメディアの目線、両方の視点から作っていきたいです。オーダーメイドのアドテクノロジーですね。
最後にこれは言っておきたい!ということがあればぜひ。
最終コンバージョンしか見ないような広告評価だけではつまらないので、第三者配信やアトリビューションの概念がもっと浸透してほしいと思っています。
また、クロスメディア、オフラインとオンラインの相関など、全体の価値を俯瞰できるようなキャンペーンにもっともっと取り組んでいき、会社としても個人としてもトップランナーとして進んでいきたいと思っています。
サイバー・コミュニケーションズ (cci)
http://www.cci.co.jp/
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