「運用型広告」の出現
電通『日本の広告費』2012年版から、新たに「運用型広告」という小分類が新設されました。ご存知のとおり、「運用型広告」は2012年に突然現れた新しい広告モデルではなく、以前からインターネット広告を牽引してきた検索連動型広告を中心に、近年急激に浸透し始めているRTBを通じたインプレッションの適時売買などが含まれています。JAAA(一般社団法人 日本広告業協会)が2012年9月に発表した「インターネット広告における運用型広告取引ガイドライン」によれば、「運用型広告」は以下のように定義されています。
配信先の端末を問わず、ディスプレイ型(バナー、テキスト等)とリスティング型(検索キーワード連動型広告、コンテンツ連動型広告)ネット広告の出稿・配信・媒体掲載等において、各サービス事業者等が提供する管理画面を用いて「運用」を行う広告業務と商品のこととする。
ここでいう「運用」とは、あらかじめ設定した目標値を達成するために、①媒体やキーワード等の選定、②入札、③広告原稿の入稿、④リンク先、⑤広告配信等の初期設定と柔軟な変更を実施し必要なレポーティングをすることを言い、これは、出稿量および媒体費用、広告効果などの情報を取得し、評価指標と比較しながら各種設定要素を調整し、最適化を行うことで実現させることである。
リンク:http://www.jaaa.ne.jp/2012/09/1619/
上記で「配信先の端末を問わず」とあるように、プラットフォーマーである Google や Yahoo! においては、ターゲティングやデバイスなど、これまでの分類基準を跨いだキャンペーン設計が以前から1つのアカウントで可能になっていました。AdWords が AdSense枠に広告を配信するコンテンツターゲット(今のディスプレイネットワークの前身)を始めたのが2004年、フィーチャーフォン向けのモバイル広告を始めたのは2006年です。現実的に媒体費の総額だけでデバイスやターゲットごとの小分類を分ける正確性も妥当性も薄くなっていることが、今回の「運用型広告」新設の背景としてあるのだと考えられます。
「運用型広告」の中心は、これまでの分類言えばリスティング広告です。IABが毎四半期に発表している「Internet Advertising Revenue Report 」では「Search」と定義されているこの手法は、2012年にはインターネット広告におけるシェアが全体の50%近くに達するほど成長し、名実ともにインターネット広告の中心的存在として君臨するまでになっています。
IAB Internet Advertising Revenue Report
http://www.iab.net/insights_research/industry_data_and_landscape/adrevenuereport
また、近年成長が著しいRTBを通じた広告売買も、「運用型広告」を牽引しています。eMarketer が2012年11月に発表したリリースによると、RTB は2015年にはディスプレイ広告全体の25%を占め、規模としては57億8200万ドルにまで達するとのこと。
RTBが2013年の今から3年後にはインターネット広告の25%以上を占め、残りの50%が検索連動型だと考えると、全体の75%が運用型広告となります。広告に限らず、マーケティング全般で運用が発生する分野は大なり小なり広がっていくものだと考えると、運用負荷の増加に比例して、運用者/分析者の実力によるキャンペーンの結果の振れ幅もますます大きくなっていくでしょう。
Real-Time Bidding to Take Ever-Bigger Slice of Display Pie - eMarketer
http://www.emarketer.com/Article.aspx?R=1009484
運用型広告を支える人々
2000年代初頭に検索連動型広告が登場してからは、望むべきアウトプットや運用方針から遡及的にキャンペーンを設計し、変更と改善を早いサイクルで繰り返していく、いわゆる「最適化(オプティマイゼーション)」が運用型広告の提案のスタンダードになっていきました。それと同時に、デジタル広告の技術進化や、検索エンジンをはじめとして広告のエコシステムを形成するプレイヤーが増えていくにしたがって、最適化のサイクルは早まると同時に複雑さは急激に増していくことになり、市場は自然と自動化への舵を切ることになりました。一方で、最適化と自動化はイコールでは結ばれません。自動化は、誤解をおそれずに言えば、あくまで最適化のための細部にわたる設計や調整を行なったあとの取引の自動化に過ぎません。取引における事務的な仕事はどんどん自動化されていく傍らで、キャンペーンの全体設計や詳細設計、分析の結果を施策に落とし込める専門人材の需要は高まっています。今後ますます増加していく運用型広告において、キャンペーンの成否を分けるのは機械ではなく、それを使う人だと言えるでしょう。
以前「リターゲティング広告」再考 や 広告オペレーションは競争力の源泉である というポストでも触れましたが、自動化が進めば進むほど「運用や設計ができる人材の採用」と「そういった人材を育てる教育」という、「人」への投資に各プレイヤーの軸がシフトしてくるという逆説性は以前から指摘されています。
広告運用の現在(State of AdOps)
運用型広告は、広告のエコシステムを形成するそれぞれのプレイヤーの中で、キャンペーンを設計し、データを分析し、改善を繰り返していく現場の人々の努力と智慧によって、以前からずっと支えられています。決して、パワーポイントに刻まれる美辞麗句や、メディアが喧伝する夢物語ではありません。
運用型広告においての業務そのものの強化は、業務を支える人材の厚みと、自動化とナレッジをうまく融合させるBPRの強化だと言えます。運用の強化は、PDCAサイクルの迅速化、ナレッジの蓄積をもたらし、広告を出稿する企業だけでなく、広告代理店やシステムベンダー、プラットフォーマー、実際に広告に接触するユーザーといったすべてのステークホルダーにとって共通の恩恵となり得るのではないでしょうか。
これから、不定期ですが「State of AdOps」という、実際の広告運用(AdOps)の現場のキープレイヤーの方々に焦点を当てていくインタビューシリーズをはじめていきたいと考えています。広告運用の最前線を担っている方々の努力と、そういった方々があまねく遍在していく市場の厚みこそが、これからの広告市場を左右すると信じています。現場のキープレイヤーたちが肌で感じていることをご自身の言葉で語って頂くことで、微力ながら運用型広告の現在の輪郭を少しでも明らかにできればと思います。どうぞご期待ください。
→第1回は、2013年3月中旬に公開予定です。
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