「State of AdOps」は、現在急速に伸びている運用型広告の成長を支え、実際の現場で価値をつくりだしている広告運用(AdOps)のスペシャリストたちに焦点を当てるインタビューシリーズです。広告運用の最前線にいる方々が感じていることを語って頂くことで、運用型広告の輪郭を少しでも捉えることができればと考えています。
第1回は、アドテクノロジーの分野で近年急速に注目が高まっている総合広告代理店である朝日広告社のアカウントプランニング部で活躍されている湯浅啓子さんに、運用広告の現在をお伺いしました。
# インタビューは 2013年3月某日に行われました。
クライアントの課題を、ちゃんと解決したかった。
現在のお仕事内容と、どういった経緯で今の職種に就かれているのでしょうか?
現在は朝日広告社のIC局アカウントプランニング部で、プロモーションディレクターという、アカウント・プランニングとアカウント・マネジメントの両方を見るような仕事をしています。営業をフォワードだとすると、1.5列目なんて言い方も社内ではしていますね。リスティング広告、DSP、アドネットワーク、純広告、タイアップなど、デジタルに関わることはひととおり扱っています。
朝日広告社の前はネット専業の広告代理店にいて、リスティング広告に従事していました。リスティング広告の仕事をしながら時折ジレンマを感じていたのは、「それだけじゃクライアントの課題解決ができない」ということでした。売りものにこだわらずにお客さまの課題を解決できる環境を求めていたところ、ご縁があって朝日広告社に約1年前に転職してきました。
もともと検索連動型広告の運用からキャリアをスタートしているので、現在取り扱いの多いDSPなど運用型のディスプレイ広告にはなじみがあるというか、自分がこれまで培ってきたスキルを活かしてどこまで最適化や課題解決ができるのか、面白みを感じながら仕事をしています。
朝日広告社としての運用型広告への取り組みと、ご自身の役割をお聞かせ下さい。
一般的に総合代理店はウェブとマスの連携が苦手というイメージがあると思いますし、実際のところ、総合代理店にとってはウェブはやはりまだ異色なメディアなんだと思います。その点、朝日広告社はその連携が比較的うまくいっていると感じています。
具体的にどういう部分でそれを感じるかというと、例えば、アトリビューションを踏まえた提案をするとなったときに、弊社ではマス広告なども扱っているクリエイターにプランニングの段階で入ってもらったりします。キャンペーン全体のコミュニケーションを踏まえた上で、デジタルでのシナリオを設計していく流れをつくるためですね。これまで綿々と培ってきた広告キャンペーンの設計ノウハウと、ウェブのテクノロジーをうまく融合する努力をしていこうという姿勢が、単なる掛け声ではなく実際に現場に浸透してきていると思います。
マスとウェブの融合って、広告主企業様の方が課題として以前から先行していると思っています。企業のご担当者の方は、複雑化するチャネルと、社内外の調整で常にジレンマを感じていらっしゃいます。そのような状況に対して、広告会社の内部でまずはちゃんと連携することで、100%とは言えないまでも、抱えてらっしゃるジレンマに回答を出すことができる。やることがたくさんある大きな企業様であればあるほど、我々の提案に納得していただくことが多いです。
私、というか実際にアカウント・マネジメントを行う担当がやることは、提案の持っているストーリーを現実に落としこむための設計です。運用型広告はもちろん、純広告、サイト内分析も踏まえた設計をしています。特に運用型広告では提案でどんなに明快でわかりやすいプランだったとしても、裏側では細かい分析や入札が発生しているので、それが実現できるような詳細設計ですね。プランの全体を見る役割の人が必ずしもウェブに詳しいとは限らないので、ウェブが主体のキャンペーンであれば、なるべく全体を把握しながら進めるように努めています。
どれだけ媒体や仕組みを知っているか。
運用型広告の課題や難しさを感じることはありますか?
課題とは違うかもしれないですが、理想と現実のギャップを感じることはありますね。例えばですが、すごくキレイに作ろうとするプランってありますよね。初回で印象づけて、2回目3回目で少しずつ目に触れて、4回目くらいから購入促進を訴求して…といったような。でも現実にはそこまで到達するユーザーの母数が実はあまりなかったり、ご予算やキャンペーンの期間が合わなかったりということはよくあります。なので、予想と現実がしばしば噛み合わない。
一方で、面白いのもこの部分で、何回かやっていけばそのお客さまでの傾向が分かってきます。エンドユーザーの時間の流れだったり、経路だったり、どの媒体が効いているのかなどといった情報が、ちゃんとした設計のもとに運用していれば徐々に見えてくるんです。それを次回にフィードバックするとちゃんと結果が出る。
私はよく「データが読める/読めない」とか、「データの読みが甘い」といった表現を使うんですが、同じレポートでも、視点を切り替えることによってたくさんの情報を読み取ることができます。
どうやったら「データを読める」ようになるんでしょうか?
CTRやCVRが高い低いという結果を見て判断するというのは、きっと誰にでもできます。問題は、その結果を次のプランニングにどう活かすかということではないかと思います。例えば、媒体のクセや、ユーザーのこれまでの動き、プラットフォームの仕様など、自分の中にある引き出しの数がどれだけあるかで、次のプランの予測の精度が変わってきます。
すごくかんたんに言えば、現時点のリスティングの予算に対してCTRやコンバージョンの数値がいいからって、予算を倍にしても同じような結果になるかと言えば、余程予算を抑制していない限りそうはならないですよね。でも、リスティング広告の仕組みを知らないとそれは予測できません。同じように、DSPでの配信結果が良かったからといって、別のアドネットワークで似たようなチューニングができるかというと、それもやはりできないですよね。経験値といってしまったらそれまでですが、どれだけ媒体や仕組みを知っているかで、データを読むときの読み方は変わってくると思います。
細かい話ですが、例えばディスプレイの運用をしていて、GDN(Google Display Network)の結果が一番よかったとします。ではそれはなぜなのかを考えると、それは枠の質がよかったり、チューニングの幅があるからなんですよね。もちろん多くのDSPに最適化機能はありますけど、GDNに比べてブラックボックスな部分もあるので、こちら側は詳細設計をしている分、結果的にはマニュアルでできる部分や枠の情報がある程度分かっているからこそ、データも読めるし、次の手も打ちやすい。理想と現実のギャップを運用で埋めていく作業なので、大変ではあるんですが。
本当は、みんながある程度仕組みについての共通理解があった上でコミュニケーションがとれるといいですよね。私自身もまだまだですが、もっと良くなっていくと思いますし、良くなっていく余地があると信じています。
運用スキルや具体的な実績が問われてくる。
2013年は運用型広告にとってどのような年になると思いますか?
これまでのような運用型広告やアドテクノロジー全般への過剰な期待は一旦落ち着いて、現場の運用スキルや具体的な実績が一層問われてくると思います。いろんな事例が出てくるでしょうし、広告主様もよりシビアに実際はどうなのかという部分を見定めていらっしゃるのではないでしょうか。
最初のプランニングどおりに結果が出るのが理想ですが、普通は設計どおりにはいきません。最初の設計はもちろん大事なのですが、運用可能な設計になっていれば、あとはPDCAをいかに短く早く回せるかが大事で、そこの腰が重いと、どんないいツールがあったとしても、どんないいクリエイティブを作ったとしても、うまくいかないと思います。
そういったことは各社さんもちろん気付いていらっしゃるので、それができるかどうかも問われる年かもしれません。
そのような状況の中で、湯浅さんの目指す方向は?
朝日広告社はアドテクノロジー領域について強みを持っている総合代理店ですので、キャンペーン設計→チューニング→再プランニングの流れはもちろんのこと、新しい技術やメニューを貪欲に取り入れる姿勢があります。一方で、新しいものを追いかけ回すだけでは意味がないので、現在あるものを有効に使いこなすための努力と、新しいものを取り入れていくバランスを気をつけていきたいと思っていますし、そのバランス感覚がある会社だとも思っています。
私の上司はこの分野に非常に詳しく理解もあって、部内に対して情報提供も頻繁にしてくれるので、すごく仕事がしやすいです。上の理解があるということは、今すべきこと/やりたいことが目の前にあったときに、それを説明するための準備や労力が少なくて済むということですし、社内じゃなくてお客さまに向かうことができるので。
今後は、今の仕事から少しずつ領域を拡げて、広告に限らずマーケティングをしっかりやっていきたいです。例えばオフラインとウェブの融合、みたいな話がありますが、店舗とEコマースのデータがつながってないケースはまだまだ山ほどあって、この分野には多くの可能性があると思っていますし、総合代理店ならではの強みも出せるのではないかと。やったもん勝ちだと思っているので、チャレンジしていきたいと思っています。
朝日広告社 | Asahi Advertising Inc.
http://www.asakonet.co.jp/
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