インターネットユーザーの動画視聴時間は増大
YouTubeの登場によって、インターネットにおける動画視聴という行為がスタンダードになってから数年が経ちました。
ComScore が毎月発表しているデータによると、2012年12月のアメリカの動画サイトの視聴者数は1億8,400万人となり、インターネット人口の約85%をカバーするとのこと。1視聴者あたりの閲覧時間も1ヶ月あたりのべ19時間を超えており、動画の視聴時間はメールなどの用途と比肩するレベルにあります。この傾向は今に始まったことではなく、2年くらい前からずっとこんな感じのようです。comScore Releases December 2012 U.S. Online Video Rankings
http://www.comscore.com/Insights/Press_Releases/2013/1/comScore_Releases_December_2012_U.S._Online_Video_Rankings
モバイルに特化した調査会社であるOndeviceresearch社が2012年11月に行なった調査によると、調査に参加したアメリカのユーザーの66%が、1週間のうち1時間以上モバイルで動画を見たと回答しています(※)。動画はユーザーの利用時間に対してマーケティングへの活用がやや遅れている分野だと言われていますが、今後動画視聴におけるデバイスの垣根がなくなり、新興国を中心にモバイルデバイスのシェアが高まるにつれ、動画を活用する重要性はこれまで以上に認識されてくると考えられます。
※サンプルは200人とやや少ないので注意。
YouTube のマーケティング利用
上記のComScore のチャートからも分かるとおり、YouTube は他の動画メディアを圧倒的に引き離しており、動画サイトにおける王座は引き続き揺るぎないものがあります。動画をプロモーションに取り入れる場合に、世界で最大のユーザー数を誇るYouTube はどうしてもファーストチョイスにならざるをえません。Google は、2006年にYouTube を買収してから動画のマネタイズにずっと腐心しており、Google のキラー・プロダクトであるAdWords との連携はもちろんのこと、動画コンテンツを持つパートナー企業のリクルーティングや、動画を制作するクリエイターに対しても積極的にサポートしています。つい先日(2013年2月)には、六本木ヒルズに YouTube Space Tokyo をオープンし、YouTube を活用するクリエイターを対象に、撮影スタジオ、スクリーン、スタジオ、編集ルームなどの施設や、映像制作用機材を無料で提供し、YouTube のエコシステムを加速させようとしています。
動画を利用したマーケティング手法は数多くありますが、多くのマーケターが最初に検討する YouTube の利用法をおさらいすることが、動画を使ったプロモーションのヒントになると思います。今回はYouTube で利用できるメニューを「チャンネル」と「広告」に分けて、それぞれの活用方法を探っていきたいと思います。
チャンネルの活用
YouTube では、「アカウントを持っている=YouTube チャンネルを持っている」状態になります。YouTube チャンネルは「作成した再生リストの配信」や「評価、お気に入り、チャンネル登録、コメントなどのYouTube上でのアクティビティ」などを管理することができます。チャンネルはカスタマイズが可能で、企業がYouTube を活用する際には、このチャンネルがYouTubeでの活動の中心になります。チャンネルは大きく分けて、通常の「ユーザーチャンネル」と高度なカスタマイズが可能な「ブランドチャンネル」の2種類があり、ブランドチャンネルでは企業のプロモーションやブランドの発信ができるように、ユーザーチャンネルに比べて使える要素や項目の数が追加されています。また、ブランドチャンネルの中でも広告の出稿金額などの基準によって「カスタムブランドチャンネル」のように自由度に差がつけられているようです。
ブランドチャンネルは、残念ながらYouTube の公式パートナーになるか、YouTube の基準を満たす額の広告を出稿しないと利用できませんが、ユーザーチャンネルも以前に比べればずいぶんカスタマイズできるようになっていますので、まずはユーザーチャンネルから始めてみるとよいかもしれません。
参考リンク:
ブランド チャンネルの作成 - YouTube ヘルプ
YouTube Brand Channels Your brand's "Always On" channel(PDF)
YouTube では動画を制作するクリエイターをサポートするためにクリエイター ハンドブックというドキュメントを公開しており、チャンネルの効果的な利用方法もいくつか解説されています。ユーザーチャンネルとブランドチャンネルでできることに差がありますが、このハンドブックを参考に、チャンネルをカスタマイズする上で差がつきやすいポイントをいくつかピックアップしてみます。
クリエイター ハンドブック - YouTube
http://www.youtube.com/yt/playbook/ja/
動画のメタデータ
メタデータとは、YouTube の動画に設定する 「タイトル」、「タグ」、「説明文」などの情報を指します。ウェブサイトで検索エンジンを意識してタイトルタグやDescription を記載するのと同様に、YouTube を動画の検索エンジンだと捉えて検索を意識してメタデータを記載する必要があります。このデータは、YouTube 内でのインデックス登録や、検索だけでなくおすすめ動画や関連動画への表示にも利用されますので、ここでいかにユーザーを惹きつけるか、検索されやすいキーワードを挿入できるかで、動画のオーガニックアクセスが決まってくると言っても過言ではありません。
動画のメタデータはチャンネル内の動画編集でいつでも追加/変更することができます。毎回一から入力するのが面倒な場合は、指定のキーフレーズをあらかじめ入力しておく「動画のデフォルト」機能があります。また、適切なキーワード/キーフレーズの発見には、YouTubeのキーワードツールを使ってみてもいいかもしれません。
参考URL: http://www.youtube.com/yt/playbook/ja/metadata.html
カスタムサムネイル
動画のサムネイル(開始画像)はユーザーがコンテンツの内容を判断する上でタイトルと同様に最も重視する情報の一つです。動画の内容が同じでも、サムネイルによってクリック率/再生回数は大幅に変わってきます。通常、動画のサムネイルはアップロード時に自動的に生成されますが、ブランドチャンネルやアクティブなパートナーであればサムネイルを任意の画像で設定できるようになりますので、使わない手はありません。一般的によいサムネイルのガイドラインは、以下だと言われています。
・明るく、はっきりしたコントラスト
・顔のアップ
・視覚的にインパクトのある画像
・適切なフレームと構図
・対象が背景からくっきり浮き上がっていること
・サイズが大きくても小さくても見栄えがすること
・コンテンツを正しく表していること
特に、最後の「コンテンツを正しく表していること」は、動画のタイトルを端的に表すような画像を選択することが、結果的にユーザーの意図と関連性が高くなります。よい広告をつくるときの考え方と同じですね。なお、サムネイルの画像サイズは 640x360 ピクセル以上、アスペクト比は16:9 が推奨されています。
もしカスタムサムネイルが現時点で使えなくても、動画の編集画面では3つのサムネイルから選ぶことができます。
参考URL: http://www.youtube.com/yt/playbook/ja/thumbnails.html
アノテーション
アノテーションとは、動画にテキスト情報を別レイヤーとして載せる(テキスト オーバーレイ)機能です。アノテーションを活用している動画やチャンネルは少ないですが、ユーザーの回遊率を上げたり、シリーズものの動画を連続して見せたり、動画の説明をしたりと、さまざまな用途に利用できます。動画内でインタラクションをつくるためにアノテーションを活用するには、アノテーションありきで動画を利用したり、あからじめYouTube内のアセットを活用するプランを動画製作時に企画していないといけないので意外とハードルが高いようですが、動画の視聴後に動画への評価やコメントなどを促したり、チャンネル内の別の動画や、検索してたどり着いたユーザー向けにチャンネル自体のリンクを掲示するなど、連続して動画を見てもらうための施策としてはとても使いやすい機能だと思います。
なお、ブランドチャンネルのみの機能のようですが、アノテーションに外部へのリンクを含めることができるので、動画を見終わったユーザーに自社サイトへのリンクを提示することで、動画での認知からサービス説明までの導線をつくることもできます。
参考URL: http://www.youtube.com/yt/playbook/ja/annotations.html
チャンネルバナー
チャンネルバナーは、チャンネルの上部にスペースをつくり、そこへバナー画像のように情報を掲示することができる機能です。一般のチャンネルでは利用することができませんが、パートナーチャンネルやブランドチャンネルであれば利用することができます。通常はチャンネルのデザインのために背景とは別で用意するケースがほとんどだと思いますが、チャンネルバナーのポイントは、表示領域にイメージマップコードを設定してクリックできることです。
アメリカのマッチングサイトであるeHarmonyのYouTubeチャンネルでは、上部のチャンネルバナーにウェブサイト、Facebook、Twitter の3つの画像と外部リンクを設置して、YouTube以外のコミュニケーションへの導線を作っています。チャンネルのメタデータでも外部サイトへの誘導は可能ですが、より視覚的で分かりやすい設置方法だと言えますね。
なお、チャンネルバナーの幅は970ピクセルで、高さは150ピクセルまで自由に指定できます。
参考URL: https://support.google.com/youtube/bin/answer.py?hl=ja&answer=1735230
有料購読のテスト
クリエイターやチャンネル運営者向けのサポートも充実し始めています。AdAge の記事では、2013年にYouTubeで有料購読の仕組みが提供されるのではないかという記事が出ています。YouTube Set to Introduce Paid Subscriptions This Spring | Digital - Advertising Age
http://adage.com/article/digital/youtube-set-introduce-paid-subscriptions-spring/239437/
オフィシャルのアナウンスは出ていませんが、チャンネルの有料購読や、アーカイブ動画への課金、Pay Per View(視聴課金)などが予定されているとのこと。近年はオンラインで授業を動画を配信する大学や、YouTubeなどを活用してラーニングプログラムを提供するスタートアップなどが増えていますので、こういった仕組みでチャンネルの多様性が広がっていくのは間違いないと思われます。
広告の活用
続いて、YouTube広告の活用になります。YouTubeでは、大きく分けて(1)Googleの担当や広告代理店/メディアレップを通じて購入する広告枠、(2)AdWords を通じて入札する動画広告向けAdWords の2種類の広告があります。
2012年の4月から正式に開始されている動画広告向けAdWordsは、これまでのキャンペーン>広告グループ>キーワード/広告 というAdWords のアカウント構造を、動画という軸で再編成したものです。Enhanced Campaigns によってまた変更があるかもしれませんが、2013年2月の時点では、AdWords の管理画面の左側のメニューではじめから別項目として立てられています。
これ以前では、「Click to Play 動画広告」と「YouTube プロモート動画」が AdWords で出稿できる動画広告でしたが、2012年になってからは AdWords プラットフォーム内での動画出稿のメニューが整備され、TrueView 動画広告としてまとめられています。
※音声は英語ですが日本語字幕がつきます
TrueView 動画広告は以下の4種類です。
TrueView インストリーム広告
YouTube パートナー動画のプレロール、ミッドロール、ポストロールとして再生され、広告が5秒間表示された後、広告をスキップするか動画コンテンツに進むかを選択できます。
広告が30秒間再生された場合にのみ課金され、広告が30秒未満の場合は最後まで再生されたときに料金が発生します。
TrueView インスレート広告
10分を超える長い動画(YouTube パートナー動画)の前に表示され、ユーザーが動画を再生する前に3つの広告のいずれかを見るか、動画の合間に表示される通常のコマーシャルを見るかを選択する形式です。
ユーザーが広告視聴を選択した場合に料金が発生します。
TrueView インサーチ広告
ユーザーの検索クエリに対してYouTubeの検索結果にハイライトされる広告です。
料金はユーザーが広告をクリックして視聴を開始すると発生します。
TrueView インディスプレイ広告
YouTube内のおすすめ動画や、ディスプレイネットワーク上の関連するコンテンツに表示される広告で、どちらに出すのか(あるいは両方か)が選べます。
料金はユーザーが広告をクリックして視聴を開始すると発生します。
動画広告向けAdWords については、こちらの仕様をご確認いただくか、昨年(2012年)8月に書いた記事「動画広告向けAdWords 活用のススメ」をご笑覧ください。
出稿する時期にもよりますが、日本ではまだまだ動画を活用したプロモーションが花形とは必ずしも言えない状況もあり、自社の活用パターンをうまく見出した企業は高い成果を上げていると聞きます。まだトライされていない場合はおすすめです。
動画マーケットの今後
eMarketer が2012年1月に発表した市場予測によると、インターネット広告市場における動画広告のシェアは、2012年の7.9%から2016年には15%に拡大すると言われています。企業の動画を利用したマーケティングの事例はずいぶんと増えてきており、今後も安定的に拡大すると見る向きが大勢を占めているようです。eMarketer のアナリスト David Hallerman氏も、2012年の6月に行なわれたカンファレンスの中で、テレビは依然として強力であり、オンラインへのシフトはスローペースであるとしながらも、動画広告のマーケットについてはポジティブに語っています。
こういった動きを補完するように海外でも動画周辺のスタートアップは増えており、つい最近(2013年2月)も、企業の動画(主にYouTube)をプロモートするVirool社が600万ドルの資金調達を発表したり、日本でもオムニバス社が動画DSPのTubeMogul社と提携するなど、動画ビジネスは日増しに熱を帯びていっている印象があります。
「今年は動画の年」とここ数年は毎年のように言われている一方で、動画を利用したマーケティングがブレイクしているという印象はこれまではあまりありませんでしたが、2013年はYouTube はもちろんのこと、それ以外でも具体的な動きが目に見えて活発になっています。今後は多くの事例が日本からも出てくるでしょう。改めて動画を利用したマーケティングには注目していきたいと思います!
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