運用型広告の成長
2000年代初頭に検索連動型広告が登場してから、変更と改善を早いサイクルで繰り返していく運用型広告が広がっていきました。IABによると、2012年には「Search」のシェアが半分近くに達するほど成長し、インターネット広告の中心的存在として君臨するまでになっています。※IAB の Internet Advertising Revenue Report はこちらのURLで更新されています。
http://www.iab.net/insights_research/industry_data_and_landscape/adrevenuereport
JAAA(日本広告業協会)が2012年の9月に策定した「インターネット広告における運用型広告取引ガイドライン」でも、
"インターネット広告における運用型広告の取引市場が拡大するなか、広告会社が責任を持って業務を受注し、高い専門性により広告主の広告活動に貢献するとともに、安定的・継続的な市場を形成するために、取引条件等のガイドラインを策定いたしました。"
とあるように、日本でも運用型広告は目覚ましい拡大を続けています。
運用型広告はテクノロジーの進化に伴ってディスプレイ等の分野にも浸透していき、並行して顕在化した分析・解析や自動化、データ統合などのニーズとも相俟って、2013年現在も絶賛進行中のデジタルマーケティングの革命期をつくり出しています。
売買コスト(Trafficking Costs)の上昇
広告を掲載するメディアの収入は企業からの広告掲載費であり、メディアを扱う広告代理店の収入は広告掲載費(媒体費)からの料率で決まりますので、これまでは、掲載保証型の広告メニューであれば、メディアも代理店も収益が確定していました。一方で、拡大をつづける運用型広告の場合は、そのほとんどが品質を加味したオークションモデルを採用していますので、掲載およびクリック等の成果は保証されていません。媒体費とそのマージンでビジネスをしている以上、運用型広告の市場が伸びていくにしたがって、クライアントの成果を上げながらなるべく掲載費を予算に合わせるために、クライアントとメディアの間に立つ広告代理店に、売買の管理コスト(Trafficking Costs)が徐々に積み上がるようになっていきました。
ただし、目標や設計によっては、自社の収益(≒媒体予算の消化)とクライアントの成果が必ずしも一致するとは限りません。残念ながら時々利益相反が起こります。広告代理店は媒体費を利益の源泉にしている以上、売買管理にかかる人件費等の費用は原価として認識されるため、これまでは、このコストを圧縮する目的として国内外へのオフショアやシステム開発による自動化が図られてきました。そして、それはこれまである程度の成果を見たのではないかと思います。
コストセンターからプロフィットセンターへ
以前書いた「RTBがデジタル広告の主役になるためには何が必要なのか?」というポストでも触れましたが、運用型広告の中心であるリスティング広告では以前から運用者/分析者のスキルによってキャンペーンの結果が大幅に変わるということが広く認知されています。単なる売買管理(Trafficking)としてであれば、コストは圧縮するに越したことはありません。ただし、RTBが3年後にはインターネット広告の25%以上を占め、50%が検索連動型だと考えると、全体の75%が運用型広告となり、運用が発生する部分は今後ますます増加していくものと考えられます。運用負担の増加に比例して、幸か不幸か運用者/分析者によるキャンペーンの結果の振れ幅も大きくなっていくでしょう。売買管理(Trafficking)としてのオペレーションから、最適化管理、最大化管理、統合管理、戦略的管理という、業務そのものとしてのオペレーション(Operation)への脱皮が求められてくるのではないでしょうか。
オペレーション、つまり運用型広告においての業務そのものの強化は、企業にPDCAサイクルの迅速化、ナレッジの蓄積をもたらし、キャンペーンの成功への近道となり得ます。それをサポートし、請け負う広告代理店のような企業にとっても、効果の維持向上による取引規模の増大、成果報酬等の採用、スイッチングの防止、媒体費に左右されない収益モデルの確立など、競争力の源泉となり得るのだと思います。
コストとして圧縮すべきものとして捉えられていたオペレーションが、プロフィットセンターとして認識され、優秀な運用担当者は同時に優秀な営業マンでもありコンサルタントでもある、それが当たり前である世界がすぐそこまで来ているような気がします。
広告オペレーションの現在
実際の広告運用については、細かな手法が語られることはあっても、実際の声を聞くことはあまりありません。広告運用のエキスパートたちが何を考えているのでしょうか。広告オペレーションについて詳しい記事が多い The Op-Ed が 2012年Q4(10−12月)という繁忙期での広告オペレーションの実態について調査した結果を公表していますので、少しだけ紹介してみたいと思います。
Poll Results: Q4’s Impact on Ad Ops Professionals | The Op-Ed
http://theoped.operative.com/poll-results-q4s-impact-on-ad-ops-professionals/
設問の1−3は、広告オペレーションチームの準備についての質問で、エキスパートの多くは運用体制の質について自信を持っていることが伺えます。(まあ自信がないとは言えないでしょうが...)
ただし、設問3のように、たくさんの仕事をパラレルに処理することに関してはネガティブで、リソースと品質の関係には注意を払っていることが伺えます。設問4に見えるインハウス化の傾向を考えても、トラフィックコストを増やさずに内部で知見をためていく方針が垣間見れます。
設問の5−8に見れるように、効率を担保しながらも、チームへのトレーニングや、技術へのキャッチアップ、モチベーションの維持には苦労していることが見て取れます。
なお、この記事には冒頭に3つのハイライトが紹介されています。
Preparedness is Key (準備こそすべて)
Beware of the Spikes (急上昇:スパイクに気をつけろ)
Not Just Traffickers (単なる売買担当ではない)
この最後の部分、Not Just Traffickers (単なる売買担当ではない)という部分は、設問の9にも同様の質問があり、85%以上が、「広告オペレーションのチームは単なる売買を超えた価値をもたらしている」と答えています。キャンペーンのマネジメントや最適化こそが競争力の源泉だと考えると、この回答こそが、オペレーションの現在をシンプルに表現しているのではないでしょうか。
”An overwhelming majority of respondents told us that their ad ops team brings more value than just strictly trafficking. This is especially important in today’s ad ops environment, where a blending of ad ops and sales is more commonplace due to the rising emphasis on RTB and technology based ad sales.”
”大多数の回答者が、広告オペレーションのチームは単なる売買を超えた価値をもたらしてくれていると答えています。これは、RTBの伸長やテクノロジーを前提とした広告営業などによって運用と営業のブレンドが当たり前になった現在の広告オペレーションという環境において、特に重要な事実です。”
オペレーションは端的にコストの圧縮や効率化・自動化を指すものではありません。最前線での実務を通じて知見を得て、クライアントと社内にフィードバックしていくことで結果的に競争力の源泉になりうるものだと思います。それはシステム化がああだとかアドテクノロジーがこうだとかは本来関係なく、環境が整ってきたことによって競争がフェアになり、自然と前景化してきた(もともとあった)事実なのかもしれません。
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