DSP、RTB、SSP に代表されるように、ここ数年来、アドテクノロジーの分野ではたくさんの3文字略語が使われ、浸透していきました。
一年ちょっと前(2011年10月)に「経営を左右する"データマネジメントプラットフォーム"とは?」というポストをしましたが、このDMP(Data Management Platform)も、ここ最近で浸透してきた言葉の一つだと思います。
一方で、DMPという言葉はホットなキーワードとして注目されている反面、上記のポストをした2011年当時では、現実として多くの企業が有効活用しているという段階にはまだ至っていないという理解でした。
あれから一年経って、DMPはどのように理解され、利用され、進化してきたのでしょうか。
IABが今月(2012年11月)発表したDMPの白書「The Data Management Platform: Foundation for Right-Time Customer Engagement」(データマネジメントプラットフォーム:タイムリーな顧客エンゲージメントのための基礎知識) は、DMPの定義や課題、実際の事例などがまとまった、DMPの今を理解する上でとても貴重な資料となっています。さまざまな切り口からDMPについて解説されていますので、重要なポイントを抜き出して抄訳していきたいと思います。
<プレスリリース>
Data Management Platforms Poised to Become Scalable Solution to ‘Big Data’ Challenges, According to IAB & Winterberry Group
<PDFファイル>
The Data Management Platform: Foundation for Right-Time Customer Engagement (PDF)
DMPの定義
2011年の夏に米Forrester Research社が出したレポート「The DMP Is The Audience Intelligence Engine For Interactive Marketers. (「データマネジメントプラットフォームは、ウェブ担当者にとって顧客を理解するためのエンジンだ」)」では、データマネジメントプラットフォームは以下のように定義されていました。… a unified technology platform that intakes disparate first-, second-, and third-party data sets, provides normalization and segmentation on that data, and allows a user to push the resulting segmentation into live interactive channel environments.
(データマネジメントプラットフォームとは)自社や外部などの様々なデータを抱合し、分割・正規化し、それらをすべてのチャネルに入力する技術プラットフォームである。
今回のIABのレポートでは、以下のように定義しています。
Perhaps the best way to capture the role and potential of the DMP, then, is thus: The embodiment of a “Big Data” solution for multichannel advertising, marketing, media and audience activation.
おそらく、DMPの可能性や役割を捉えるためには、次のような言葉がふさわしいかもしれない。(DMPとは):マルチチャンネルの広告やマーケティング、メディアやユーザーの活性化など、いわゆる"ビッグデータ"と呼ばれるソリューションが具体化したものである。
ただしこの定義も、DMP自体が発する人によってさまざまな定義が生じてしまう現状を考慮した上で設定されているので、どうしても最大公約数的というか、やや総花的な言い回しにならざるを得ないなあと感じてしまいます。「ビッグデータ」という言葉にカッコがつけられているところからも、それが伺えます。
ちなみに、他の定義の例として、以下が挙げられています。
・広告のターゲティングに利用するためにデータを統合する、先進的で自動化されたアプローチ
・顧客体験から個別のインサイトを得ることを助けるツール
・メディア効率、DSPやSSP、トレーディングデスクの存在を可能にするもの
・最終的にマーケターのデータニーズを引き受けるワンストップサービス
DMPへの期待
このレポートでの調査に回答した北米企業のうち77%は、DMPが中長期的に広告やマーケティングにおいて重要な役割を発揮すると考えており、そのうち62%は既にDMPを導入しているか、1年以内に本格導入すると答えているそうです。期待が非常に高まっているDMPですが、以下のグラフのように、企業によって活用したい分野はさまざま、あるいは非常に広い射程でDMPを捉えていることが分かります。
※P4:Which Of These Enterprise Needs Do You See As Major Contributors To Interest In (And Demand For) DMP Solutions?(以下の「企業のニーズ」のうち、あなたが興味がある、あるいは求めているDMPのソリューションはどれか?:複数回答可)
「ビッグデータ」という言葉がさまざまな意味を内包している(してしまった)ように、そのビッグデータを具現化するDMPもまた、さまざまな役割を期待されているのかもしれません。
上のグラフでは、
「広告のターゲティング効果の改善」:87%
「メディアのオーディエンス購入の促進」:83%
「顧客インサイトの統合」:81%
の3つがそれぞれ80%以上の回答を占めており、やはり昨今のアドテクノロジーの文脈でのDMP利用熱が高いことが分かります。
一方で、上記以外にも、
「クロスチャネルマーケティングの可能性の発見」:63%
「大規模データのマネジメント」:63%
「オフラインデータとオンラインデータを適切に結合」:54%
という回答もあり、単純に広告用途としてでなく、マーケティング戦略の中でDMPを積極的に活用し、競争優位性を確保しようとのねらいがあることも伺うことができます。
DMPを図解する
DMPがどんなもので、どんな役割が期待されているかはなんとなく分かってきましたが、実際はどうやって機能しているのでしょうか。以下のDMPを図解したチャートを見てみるとわかりやすいです。
※P8:AGGREGATE-INTEGRATE AND MANAGE-DEPLOY
上図は、左から右に流れています。
まず左が「AGGREGATE」、つまりデータを集める部分です。ファーストパーティ(自社データ)とサードパーティ(外部データ)が基本となり、それ以外にオフラインのデータや取引データ、それ以外の変数となりうるパラメータなどがこの部分に該当します。
続いて、真ん中がいわゆるDMPと言われているものの根幹です。
機能としては、集められたデータに対して、以下の4つの作業を行います。
Storage / Warehousing (保管)
Normalization (正規化)
Selection / Segmentation (分割)
Analytics & Decisioning (分析)
最後の右側の部分が、「DEPLOY」、つまり実施の部分です。DMPのアプリケーション機能を経て、雑多なデータが使えるデータに変貌したので、それらを活用するフェーズになります。
具体的なユースケースとしては、独立したデータフィードとして他のアプリケーションのパラメータとして活用されることもあれば、データそれ自体が分析の対象となることもあります。現時点ではオンライン広告のターゲット用データとして用いられることが多いようですが、オフラインデータとの相関や統合が今後のチャレンジとして考えられています 。
このレポートは白書なだけに用語の解説だけでなく、DMPをいろんな角度から解説し、表にしています。すべて紹介するのはたいへんなので、大事なところだけ抜き出してみます。
Q: DMPはビジネスのどの機能を実際にサポートするものなのか?
主に、以下の4つの機能をサポートするもの。
・広告
・マーケティング
・メディアセールス
・コマース
Q: マニュアルでのデータマネジメントと比べてDMPを導入するメリットは?
主に、以下の6つの点においてマニュアル作業よりメリットが大きい。
・データ統合が可能
・スケーラビリティ
・スピード
・目的に合わせた柔軟性
・アクションに結びつける分析や発見
・堅牢性
DMPの課題
これだけ見るとDMPを導入するのはメリットだらけのような気がしますが、多くの企業でまだDMPは本格的に経営の中に組み込まれているとは言いにくい状況です。DMPを導入するのにボトルネックになっているのは何なのでしょうか。※P28:Which Issues Would You Describe As ‘Major Hurdles’ Inhibiting Faster DMP Deployment?(以下の「主なハードル」のうち、どれがDMPの実装を阻害する要因だと思いますか?:複数回答可)
上のグラフでは、以下の3つが大きな課題として挙がっています。
「内部の承認プロセスやマーケティング部の問題」:73%
「DMPについて内部に責任者がいない」:71%
「経営陣にDMPを担当する役割がそもそもない」:63%
面白いことに、DMPの導入に際しては、技術面や価格面などよりも、社内の組織体制が問題になるケースが多いという事実が浮き彫りになっています。「導入したいけれど、理解されない」「導入したところで、誰がやるんだ?」という声が聞こえてきそうです。
上記以外にも、
「測定基準が明確でない」:56%
「前例がなく、導入に際しての費用対効果がわからない」:55%
「セキュリティやプライバシーの問題が懸念」:44%
という回答もあり、ある意味イノベーションの過渡期における典型的な問題と捉えることもできますが、何はともあれ、DMPの導入においては、単純にDMPの機能を設置すればOKということではなく、データの取り扱いや、各部署との連携や責任の範囲、活用方法や経営プロセスへの組み込みなど、真面目にやればやるほど検討範囲が広がってしまい、DMPの導入を検討することが、そのまま企業の組織のあり方を問い直してしまうという、頭の痛い問題に発展していきやすいということなのかもしれません。
DMPの今後
この白書には、DMPの活用について、活用分野別に・活用分野の定義
・現状の企業の活用状況
・成長性
・調査パネルからのコメント
というかたちで、1枚づつまとめられています。
例)ターゲティング型オンライン広告への活用 (P:18)
これと同じように、先ほども課題として挙がっていたDMPを導入する上で避けて通れない組織の問題について、「Marketing Operations Restructures (マーケティング運営の再構築)」という項目があります。
Marketers, publishers and other data users will initiate a series of large-scale organizational realignments to capitalize on the potential of their enterprise information assets (with a focus on leveraging the DMP as a central engine for the reinvented, data-driven organization).
データを使うすべての人々は、企業の情報資産の可能性に投資するために、大規模な組織的再編に取り掛かることになるだろう。(DMPをデータドリブンな組織にするための中心的役割にして)
これまでも、イノベーションが進むたびに、企業や組織のサイロ化はたびたびボトルネックとして指摘されてきました。ただ一方で、組織の役割分担をなくしてしまえばスーパーマン以外は仕事ができなくなってしまいます。
過度な理想論ではなく、データを競争力に変換するために、組織を構成する一人ひとりの顔を見て、自社はどうすればいいかを考え、実行していくという、新しい人とデータの関わり方を、DMPは提示してくれるのかもしれません。
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