タグマネジメントとは
「ITに確認してみないとちょっと分かりません」
「これって全ページに貼らないといけないんですよね?コストが…」
「またタグを増やさないといけないんですね。うーん。」
オンラインでのマーケティングに関係した仕事をしていると、よくこういった場面に出くわすことがあります。アクセス解析やウェブサイトのA/Bテスト、行動ターゲティングやリターゲティング、コンバージョントラッキング、アフィリエイトなど、キャンペーンの種類が増えれば増えるほどタグの種類は比例して増えていきタグの追加や管理が煩雑になっていきますので、ウェブ担当者や広告代理店、制作会社はその都度頭を悩ませることになります。
そういった煩雑で面倒なタグの管理が増えてきたことによって登場したのがタグマネジメントという考え方です。元々はどうやって増え続けるタグを管理していくのかという管理手法を意味していましたが、近年ではキャンペーン毎にいちいちタグをウェブページに埋め込むのではなく、一つのタグから各キャンペーンのタグを呼び出すことにして、ページごとのタグ(やタグから生成されるデータリスト)の管理はサーバーサイドで一括で済ましてしまおうというタグのマネジメントツール/システムが増えているため、「タグマネジメント=タグマネジメントシステム」を意味するようになってきました。
タグマネジメントの大手であるTagMan が今月(2012年7月)に発表したインフォグラフィックによると、1,000万以上のドメインを対象にサイトに設定されているタグの状況を調べたところ、1サイトあたり平均で4.7種類のタグが設定されており、全体の2割近くのドメインに6種類以上のタグが設定されているとのこと。タグの種類もアクセス解析であればサイト全体になり、広告の効果測定であれば広告のランディングページやコンバージョンページとなり、ページごとに設定されているタグが違うことは当たり前だと考えると、タグマネジメントの重要性が何となく分かりますね。
タグマネジメントのチェックリスト
タグマネジメントの重要性は分かっていても、タグはウェブサイトのパフォーマンスを測ったりマーケティングの効果を上げるための重要なデータ・ソースだったりしますので、実際にゴチャゴチャと肥大したタグを目の前にするとどうしても "間違いがあってはマズい" "正直面倒くさい" と腰が重くなってしまうこともあると思います。また、タグマネジメントシステム自体が売上や利益に直結するとイメージしにくいためか、現場は必要だと思っているのに周囲の理解が得られにくいという問題もあるかもしれません。
そこで、現時点でタグマネジメントシステムを導入すべきなのかどうかの客観的な視座を得るために、フォレスター・リサーチ社が2010年の12月に出している「How Tag Management Improves Web Intelligence」という資料にある、タグマネジメントを導入すべきかどうかのチェックリストを使ってまずは診断してみるというのがいいかもしれません。
元記事:
Forrester Research : Research : How Tag Management Improves Web Intelligence
(原文は英語なのでかんたんに翻訳しています)
SlideshareにPDFで上げています。印刷して使ってみて下さい。(リンク)
タグマネジメントの6つのメリット
上記のチェックリストの設問を見ていくと、タグマネジメントシステムの導入基準が浮かび上がってきます。 具体的には:
• タグの数
• タグの追加変更にかかる時間
• タグの追加変更の頻度
• タグに関わる組織(チーム)の数
• サイトの大きさと複雑さ
• ページのロード時間におけるタグの影響
となり、これらそれぞれの項目が大きくなればなるほどタグの運用管理が難しくなり、タグマネジメントシステムの必要性が上昇するということになりますね。
先ほどのフォレスターのレポートには「タグマネジメントシステムを導入することによる6つのメリット」という記述があります。タグマネジメントシステムの導入事由を簡潔にまとめたもので、意外とウェブ上に記事が少ないタグマネジメントにあって、比較的よく言及される部分です。拙訳ですが紹介します。
Accuracy(精度) タグマネジメントシステムは、すべてのページに一意の解析タグを設定するためのメカニズムです。これによってデータ収集率の向上や、安定した測定環境を確保し、分析の精度を高めることに繋がります。ある小売店のウェブ解析マネージャーは、"タグマネジメントは細かい項目で動的に変化するショッピングカートシステムに手動でタグを追加して測定するという極めて複雑な実装を軽減し、解析作業を向上させる" と話しています。
Efficiency(効率) タグマネジメントシステムは、以下2つのベネフィットがあります。 1)ウェブサイトの開発サイクルにおけるタグの追加、削除、編集のキャパシティを強化し、 2)ITの関与の必要性を最小限にします。これにより、内部リソースの観点からも、より速くより安価なタグマネジメントプロセスになります。ある金融関係のウェブ解析マネージャーは、"タグマネジメントシステムが単一のアプリケーションのみでコードの更新とバグ修正を迅速にサポートしてくれるので開発サイクルが短くなった" と話しています。
Freedom(自由) タグマネジメントシステムは、複数のアプリケーションから複数のタグをサポートし、任意のページにそのタグを適用します。これによって、特定のページへのタグの運用(代理店やベンダーの変更による影響も含む)やプロジェクトの目的に沿った運用についての柔軟性が向上します。併せて、単一のベンダー依存やツールベンダーのスイッチングコストも削減できます。ある保険会社からウェブ解析マネージャーは、タグマネジメントの主なメリットとして、新しい分析アプローチをしやすくなったこと、新しいベンダーを追加する機能があることを挙げています。
Restores tag ownership to measurement experts(タグ管理を解析のプロへ戻す) タグマネジメントシステムによって、タグの管理責任をITからマーケティングやウェブ解析チームに移行することができます。タグ管理上のプロセスにあった様々な障害を排除し、タグ管理を解析チームの手許に置くことができるので、ウェブの分析にとって前進になります。
Stewardship(管理責任) タグマネジメントシステムによって、アプリケーション、サイト、およびユーザー間でのタグの標準化を強制的に進めることができます。このような一貫性を保持することによって、広範な測定フレームワーク、共通の分析手法、ベスト·プラクティス、プライバシーやコンプライアンスなどがサポートできます。あるメディア企業の分析ディレクターは、"タグマネジメントはどのページにどんな広告ネットワークがあるかといった、メディア企業が持つべきガバナンスをサポートになる” と強調しています。
Enhanced page load performance(ロード時間の向上) タグマネジメントシステムは、タグの重複した変数の統合、共通のショートカットの削除、必要とされるタグのみの表示機能などによってウェブページを軽くし、ロードパフォーマンスを向上させることができます。加えて、あるウェブ分析コンサルタントは、"イマイチなタグの設計は頻繁にウェブサイトのパフォーマンスを損なうと話しています。
タグマネジメントシステムの機能
肥大化し複雑化するタグに悩んでいる担当者からすると福音のようなタグマネジメントシステムですが、実際はどのような機能を提供しているのでしょうか。
同じくフォレスターのレポートに、「Tag Management System Characteristics (タグマネジメントシステムの特徴)」と題した表がありますので、こちらも日本語化してみました。基本的なタグ管理機能のほかに、ルール管理やワークフローの機能など、とにかくシンプルにして運用に特化していることが分かります。
上記で挙げられている特徴のほかに、導入の経緯としてよく語られるのがアフィリエイトの重複チェックでしょうか。
複数のアフィリエイトネットワークを使っていると、重複がないように承認作業をしたりコンバージョンフォームを変えたりといった作業はつきものですが、それと合わせて重複成約のリスクを避けるための解決策としてタグマネジメントシステムを使うこともあるようです。
TagMan の調査レポート「Deduplication Survey」によると、アフィリエイトのようなCPAベースの広告のうち、コンバージョンの2割弱は重複しているのではないかと考える広告主が40%に及ぶようです。
TagMan deduplication survey, full results report, March 2009(PDF)
※リンク先はPDFです。
この調査自体がタグマネジメント会社の提灯調査ですし、サンプリングも主要なメーリングリストにSurvey Monkeyのフォームを流したということで母数も公開されていませんので、結果自体はやや割り引いて受け止める必要がありますが、アフィリエイトを多用する企業にとっては非常に重要な問題であることには変わりありません。
タグマネジメントシステムのプレイヤー
タグマネジメントシステムを提供するベンダーは年々増えているようですが、海外の主要なタグマネジメント会社は以下の5つです。表はやはりフォレスター・リサーチ社のレポートから。
老舗のTagMan 以外はここ2−3年で創業された会社が多いようです。やはりアクセス解析の進化やアドテクノロジー系のベンダーが増えたことによってサイト内のタグ設置の要請が増えていると考えられます。
なお、日本のタグマネジメント会社についてはスケールアウトさんのブログ「タグマネジメントについて勉強してみる」が非常に網羅性が高く詳しいのでぜひご参照下さい。
タグマネジメントのROI
繰り返しになってしまいますが、タグマネジメントシステムの導入は売上に直結するソリューションではないため、コストの負担については二の足を踏みがちですし、導入にリスクが伴わないわけではないので及び腰になるのは仕方がないと思います。
一方で、オンラインでのマーケティングに取り組む以上、今後もタグを必要とするケースは増えることはあっても減ることはありません。チェックリストを利用して現時点でのタグマネジメントの必要性を吟味し、長い目で見た時にタグマネジメントが有効かどうかを判断するために、タグにまつわる作業コスト(多くは見えないコスト)を棚卸ししてみるのもよいかもしれませんね。
TagMan に次ぐ老舗であるTealium は「The ROI of Tag Management」というレポートを出していますし、同名のインフォグラフィックも出していますので、参考までに貼り付けておきます。現場でタグの管理に困っている方々に少しでも参考になれば幸いです!
(2012年10月2日追記)Google のタグマネジメント
2012年の第四四半期の初日となる10月1日、広告だけでなくアクセス解析の巨人でもあるGoogle もタグマネジメントを正式に発表しました。
Digital marketing made (much) easier: Introducing Google Tag Manager - Analytics Blog
http://analytics.blogspot.jp/2012/10/google-tag-manager.html
Google Tag Manager official website
http://www.google.com/tagmanager/
Google Tag Manager は以下の5つのタグをデフォルトで取り扱うことができ、
AdWords Conversion Tracking
DoubleClick Floodlight Counter
DoubleClick Floodlight Sales
Google Analytics
GDN Remarketing
それ以外でも、サードパーティのピクセルトラッキングのタグ、およびHTMLタグはサポートされるそうです。サポートするベンダーもオープン当初から100社近く揃えるなど、本気度が伺えますね。日本ではアユダンテさんが紹介されています。
# アユダンテさんのTag Manager 紹介記事がとても詳しいので併せてご参照下さい。
Analytics はまだデフォルトのタグのみ実装可能ですが、今後はカスタム変数などにも対応するとのこと。増え続けるタグの管理に、またひとつの回答が示されたかたちです。
2012年はタグマネジメントにとっても群雄割拠の年となりました。今後どのように収斂されてくるのか、はたまた配信側/アクセス解析側で新しいプレイヤーが現れるのか、引き続き見守っていきたいと思います。
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