先月(2012年3月)にレポートが発行されたcomScore のvalidated Campaign Essentials™ (vCE™) を呼び水にして、ここのところViewable Impression(閲覧されたインプレッション)についての議論が盛り上がっています。
comScore のプレスリリース:
comScore Releases Full Results of vCE™ Charter Study Involving 12 Leading U.S. Advertisers
http://www.comscore.com/Press_Events/Press_Releases/2012/3/comScore_Releases_Full_Results_of_vCE_Charter_Study
賛否両論のvCE™
vCE™ については以前のポスト「バナー広告のサイズとCTRと視認性を考えてみる」にも書きましたが、要するにcomScore が開発した1秒以上画面に表示されていたかどうかの指標である「in-view」配信かどうかや、地域やadsafe(安全な場所)、不正な配信ではないかという指標でインプレッションを測定することができる製品のことです。
この製品のプレスリリース(上掲)に、「調査したキャンペーンのうち、配信されたインプレッションの31%は消費者がまったく見ず、広告が読み込まれる前に移動してしまったか、広告が表示される部分までスクロールしなかったと思われる」という刺激的な説明がされていたこともあって、賛否両論がブログやIT系のメディアを賑わせています。
賛意を示すSAY:とGoogle
サンフランシスコに本社を於くSAY:は、4月18日にCost Per eXposure (CPX) モデルの製品の販売を開始したと発表し、自身のリリースで「業界平均の3倍から4倍のCTRが見込め、ブランドの適切な露出を保証する」と伝えていますし、Google も同日に 「Brand Activate Initiative」を発表し、「Active View」と「Active GRP」という2種類の広告測定ツールを提供すると発表しています。
Say Offers ‘Cost Per Exposure’ Pricing; Google CPC Stuff; Everyone Needs A Designer
http://www.adexchanger.com/ad-exchange-news/wednesday-04182012/
Google to Support ‘Viewable Impressions’ and Online GRPs
http://www.adexchanger.com/online-advertising/google-to-support-viewable-impressions-grp/
いずれも上述の「in-view」の基準に沿った測定が可能な商品で、Google については「Active View」を数週間以内にGDN(Google Display Network)に導入、いずれはDFA(DoubleClick for Advertisers)に統合するとしています。Google が力を入れているディスプレイ広告を利用する大手の広告主に配慮した方針と言えますね。
ちなみに、Google ではもともと「in-view」をある程度可能にすると思われる「Above the fold(ファーストビュー)」配信ができます。
# あくまで「ある程度」です。良記事良サイトであれば記事下レクタングルとかはめちゃめちゃin-viewです。
具体的には、AdWordsのネットワークタブから除外設定で、「スクロールしないと見えない範囲」を除外することによって、ファーストビューにある広告枠にだけ配信することができます。ブランド保護という観点では、AdPlannerトップ1,000のみへの配信もできます。(トップ1,000以外を除外)
パブリッシャーサイドからは懐疑的な意見も
イールド(パブリッシャー)サイドからは懐疑的な意見も出ています。YieldexのTom Shields は、C3 Metrics の"多くの広告が見えない場所に表示されていることによってCTRが179%過小評価されている"という主張に対して、「確かにCTRは倍になるけれども、 パブリッシャーサイドがViewable Impressions のためにCPMに倍の請求をするようなことがなければ、結局CPC (もしくは ROI)は結局同じではないだろうか」と疑問を呈しています。
Moving to “Viewable Impressions” Isn’t The Answer
http://www.adexchanger.com/the-sell-sider/viewable-impressions-isnt-the-answer/
併せて、パブリッシャーにとっても、Viewable Impressions にしか請求できないということがない限り収入は変わらず、むしろcomScore などの測定ベンダーに払うコストを誰かが負担しなければならないことを考えると、果たしてこの指標はオンライン広告にとって前進なのかどうか分からないと伝えています。
Viewable であることが示す意味
一方で、アトリビューションの考え方では、ビュースルーを測定することによって態度変容ポイントを測定したり、それを元に予算配分やメディア/コミュニケーションプランにフィードバックすることが求められます。
Viewable Impressions の考え方でいくと、現在のビュースルーはビュースルーではなく、インプレッションスルーになり、態度変容の前提である「広告を見た」という状態かどうか分からず、comScore のデータにしたがえば31%は見られていないことになります。これでは、メディアごとのユーザーの反応に相関があっても因果があるかどうかは分からなくなるので、いきおいViewable であることの重要性は増してくるかもしれません。
現在のアトリビューションはディスプレイ広告やリスティング広告の文脈で語られることが多く、アトリビューション分析がある程度分析の体をなすには、多くの広告費を一定期間投下できる規模が必要です。しかしながら、オンライン広告を支えているのはそういった大手の広告主だけではなく、むしろほとんどが中小企業だと言って差し支えありませんので、大規模なアトリビューション分析ができる企業は実際のところそれほど多くありません。
中小の広告主の多くはダイレクトレスポンスをオンライン広告に期待しており、間接効果が見込めるメディアに多くの予算を投下していない以上、ラストクリックに近いリスティング広告やリターゲティング広告を中心に考えるケースが多いと思います。その場合の指標はCPM(CPV)ではなくCPCとなり、Viewable かどうかは優先的な指標ではなく、クリックして買ってくれるところであればなんでもOKだという考え方が引き続き根強いと思います。
もしViewable かどうかがオンライン広告を語る上でスタンダードになるとすると、「Above the fold + ブランドサイト」と、「Below the fold + マイクロサイト」に大別された広告主や配信モデルの棲み分けができてくるかもしれません。
Viewable Impression がもたらす影響はどの程度なのか。まだまだこの議論は過渡期ですが、過剰に反応せず、自社の状況と照らし合わせて判断していきたいですね!
※この記事は2012年4月に掲載されたものです
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