以前「インハウスSEMのチーム体制を考える」という記事を書きましたが、リスティング広告を施策の中心に設定したため「SEOが無視されている!差別だ!断固反対!」というご意見を一部のSEO関係者から頂戴しました。
今回はそういった声にお応えして、インハウスSEOを実施する際のチーム体制、具体的にはSEOの担当者はどの部署に所属するべきなのかについて、SEWの記事「Where Should In-House SEO Reside? 」を参考にしながら書いてみたいと思います。
Where Should In-House SEO Reside? - Search Engine Watch (#SEW)
http://searchenginewatch.com/article/2158219/Where-Should-In-House-SEO-Reside
インハウスSEOを実際に行うには、実務のテクニカルな側面を論じる前に、SEOに使える予算や部門ごとの人数、そしてなによりウェブサイトのオーナーシップをどこが持っていてどのように修正や更新を取り仕切っているのかによって、望ましい所属先が変わると思います。社長の鶴の一声で何でも変えられる小規模のオーナー企業であればウェブマスターかIT担当(多くは社内SEも兼務)となりますし、製品部門がいくつも分かれるような大企業の場合は、ウェブサイトも大きく部門ごとの利害が絡みあうため、事業部から求められてもPRやマーケティングとの調整に時間がかかったりするかもしれません。 実際の規模や組織構成はどうであれ、インハウスSEOを強化しようと決意した場合、どんな権限を持つどんなチームに所属すべきかは、非常に悩ましい問題です。
そこで、インハウスSEOで想定される所属先を5つに大雑把に分けて、それぞれどのような事情がありそうか、以下にかんたんに図にしてみました。
(クリックすると拡大します)
2通りの配属のしかた
一時的なタスクフォース:もし完全な縦割り型構造ではなくマトリックス的な組織構造であれば、タスクフォースとしてのSEO担当は特定の部門に一任させるよりは機能する可能性が高いかもしれません。(特に北米では、SEO担当の進捗や成果を部門の異なる別々の上司に報告することは珍しくないようです)タスクフォースは部門ごとの成果ではなく設定したプロジェクトの達成を最優先とする組織のため、特定の部門にSEO担当を置くよりは調整がしやすく、スピーディに社内SEOを進めることができると思います。
チームメンバーとして所属:これはタスクフォースとは異なり、特定の部門でSEOを遂行します。サイトのオーナーシップが特定の部門で担われている場合には迅速に施策を進めることができる一方で、製品部門がたくさん分かれていたり、サイトの更新権限が各部門に分かれて(新着情報やプレスリリースは広報、製品部門は各製品部門、制作会社との折衝はIT部門などに分かれて)いたりすると、事前の目標設定を決めたり、各部門内にコンタクトパーソンを決めたりする必要があります。
各部門への配属
1. IT推進・社内SE
インハウスSEOを行う際に最初に考えられるオプションが、ITインフラを担当する部署だと思います。多くの場合でこの部門がウェブサイトの更新を行ったり、ドメインの所有や内部のシステム権限持っているので、SEO担当がこのグループに配属された場合、スピーディな内部施策が可能になります。
一方で、SEOを行うにあたって、マーケティングとの関わりは無視できません。SEOはテクニカルな部分が重視されやすいですが、適切なキーワード選定に始まり、広告やソーシャルメディア、短期的なキャンペーンとの兼ね合いも考慮しながら進める必要があるため、IT推進や社内SEの部門にあるSEO担当に極端な権限移譲をしたり、他部門との関係が閉じている場合、SEOの施策より他部門との調整に多くパワーを割かなければいけないおそれがあります。
2. デザイン&ウェブマスター
企業のサイズによって、単一の担当部署がウェブの一切を任されているケースと、各部門にそれぞれデザインやウェブ開発の担当を持っている場合があります。また、ウェブマスターの役割として、ウェブサイトの所有権を持っているのか、企業内の各部門の代理として機能するかどうかが、このチームにSEOの貢献度に影響するかもしれません。
ウェブマスターにウェブサイトの権限が一任されている場合、長所と短所はIT推進の場合と同じになります。一方、各部門の代理として機能している場合は、それぞれの要求の優先順位を決めないとうまく機能しない場合があります。また、IT推進と比べてデザインやマーケティングの側面に明るい一方、SEOのテクニカルな部分が軽視される傾向があるので、それぞれのバランスをとることが大事になります。
3. 広報・PR
この部門はちょっと厳しいかもしれません。通常、広報やPR、コーポレートコミュニケーションと呼ばれる組織は、ウェブサイトの役割を外部とのコミュニケーションリソースとして考えますので、過度な検索エンジン最適化よりは、使いやすさ、説明責任、安定性などが優先事項になります。もちろん、SEOと使いやすさや安定性などは相反する項目ではなく両立可能な項目のはずですが、ウェブサイトへのアクセスやコンバージョンといった定量的な指標をこの組織の目標として置くには、内部での評価指標や他の部門との利害の不一致などが予想されるため、多くの場合で、SEO担当者が広報やPRに所属することは少ないような気がします。
4. 事業部・製品担当
インハウスSEOを行う場合、もっとも機能しそうなのが、SEO担当を直接事業部に配属させることだと思います。IT推進やウェブマスターとの協力関係にもよりますが、スピーディにSEOを考慮した改善を進めることができ、会社の売上を担う製品チームの意向を考慮しながら進めることができそうです。また、予算が事業部に一任されている場合、広告代理店などの外部パートナーは事業部をアカウントとするため、オーガニックと広告の兼ね合いを見ながら、広告代理店やツールベンダーとの折衝の際にも有利に働くことがあります。
一方で、製品が頻繁にアップデートされたり、規模の大きいキャンペーンを頻繁に打つ場合を除いて、長いあいだSEO担当が一つの事業部に居続けることは難しいケースもあります。どうしても仕事が単調になり、やれることが少なくなってくることもありますし、事業が多岐に渡る場合は、部分最適は統合的なマーケティング施策の足かせになることもあるかもしれません。
5. マーケティング
インハウスSEOが機能している企業では、多くの場合、SEO担当者がマーケティング部門に所属しているようです。SEOは検索エンジンマーケティングの一部であり、検索エンジンマーケティングはマーケティングの一部ですから、さもありなんという感じですね。
短期的なスピード感では事業部配属の方が有利な気がするものの、メールマーケティングやソーシャルメディア、純広告やリスティング広告、広告に限らないマーケティング施策など、多くの担当者と連携しながら仕事を進められることで部分最適ではない統合的な進め方が可能になりますし、SEOに必要な様々なスキルを他の視点を通じて学ぶことができると思います。
かんたんなまとめ
インハウスSEOをどの部署で行うかということは、企業の組織構成や文化、予算や規模によっても違います。結果的に外部のツールやコンサルティングを活用するという結論に至ったとしても、SEOを含めたホリスティックなマーケティング施策を会社全体で行うためにはどうすればいいのか、スピーディに企画を実行へ移すにはどういった組織とレポートラインであるべきかなどに思いを巡らすことは、今後よりいっそう多様化していくマーケティングチャネルを理解し、踊らされないためにも大事なプロセスなのだろうと思います。自社に合った組織のあり方を模索するヒントになれば幸いです!
2012年8月22日 追記:
以前のインハウスSEMのスライドと合わせて、Slideshareにアップしました。
インハウスSEMの体制(日本語)- Inhouse-SEM-team structure(ja)
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