節度あるリマーケティングのためにすべき3つのこと



「リスト枯れ」という言葉


最近、ネットサーフィンしていて、なんだか同じ広告ばかり見ているな、と感じている方は多いと思います。その場合、広告を出稿している企業のバナーの投下量が多いという可能性もありますが、もしその広告が最近訪問したことがある企業のものであれば、おそらくそれはAdWords のリマーケティング広告でしょう。


2010年の春にリマーケティング広告が登場してから、企業はこぞってこの手法を採用し、今ではSEMにある程度力を割いている企業であればデフォルトに近いほど使われていて、多くの企業で成果が上がっていると聞いています。

が、ここ最近は「リマーケ枯れ」とか「リスト枯れ」という言葉をたまに耳にするようになりました。AdWords のリマーケティング広告を開始してからディスプレイネットワーク経由でのコンバージョン数や率が劇的に向上し、しばらくアゲアゲ状態を堪能したのちに、クリック率が徐々に低空飛行となり、コンバージョンも尻つぼみになってしまう現象を指すようです。ユーザーからしたら「リマーケ疲れ」ですね。

「リストが枯れる」という表現自体が、なんだか焼畑農業的な飛び込み営業感を連想させて残念な気持ちになりますが、枯れているのは、リストというよりも、実際に一つ一つのブラウザを見ている一人一人のユーザーの興味関心です。



リマーケティングとエコシステム


ディスプレイネットワークのエコシステムというのは実にうまくできていて、広告を出稿する広告主からすれば、一つ一つのページに書いてあることをGoogle が自動的に解析して関連した広告を選定するコンテンツターゲット広告と、このサイト(ページ)に指定して出したいという欲求を満たすプレースメントターゲット広告を選ぶことができ、広告を掲載する広告媒体(メディア)からすれば、AdSense枠を一つ用意すれば、純広告用のアドサーバーを用意せずとも先述のどちらかの方式でオークションで選ばれた広告が自動的に出てきてページビューのマネタイズを補完してますし、サイト(ページ)を見るユーザーにとっても、読んでいる記事に関連する広告が出る可能性が高いので、広告がある意味情報としても機能するため、広告主、媒体(メディア)、ユーザーの三者にとって都合のよい、優れたモデルでした。

そこに鳴り物入りで入ってきたのが、枠をターゲットにするのではなく、ユーザーをターゲットにしたリマーケティング広告です。

リマーケティング広告はご存知の通り、一度広告主のサイトを訪れたことのあるユーザーが、その後にAdSenseの枠のあるページを見た際に、そのページの文脈に関係なく、過去の広告主のサイトへの訪問履歴を参考に広告をオークションに参加させるという手法です。

一度訪問したことがあるユーザーへの興味(というか「気づき」や「思い出し」)が促進されることにより、一般的にリマーケティングのクリック率は高いと言われているため、AdWordsの広告ランクが高くなる可能性が高く、結果的にオークションに常に勝ってしまい、ユーザーからすると同じ広告ばかり見る、という現象が発生します。

もちろん、そのこと自体はオークションという形式の中でフェアな競争の結果なわけですから問題ないのですが、要は、そのバランスです。

広告を出稿する企業がみんなこぞってリマーケティングをやることによって、ユーザーによっては広告枠に過去の訪問履歴が並ぶだけ、ということになっている可能性があり、そうなった場合、バナーへの反応が落ちたり、「またこの会社か…」という反応を生んだりします。テレビでも、同じ広告ばっかり見ていたら、しかもその広告が別に好きなクリエイティブじゃなければ、うんざりしますよね。

これだけリマーケティングが普及してくると、先述のエコシステムのバランスにも何かしらの影響があると思います。リマーケティングの掲載率が上がっているということは、そのぶんコンテンツターゲットやプレースメントターゲットの掲載率が下がっているということですし、リマーケティングがそれぞれの枠に掲載するために必要な広告ランクを引き上げているわけですから、相対的にリマーケティングよりクリック率の低いコンテンツターゲットやプレースメントターゲットに求められるCPCは上がってしまいます。最近コンテンツターゲットの成果が下がってきているなんてこと、ありませんか?

リマーケティングの隆盛は、短期的にはプラットフォームであるGoogle も、媒体(メディア)のマネタイズも伸びて潤うと思うのですが、肝心の広告主はリマーケティングに頼らざるを得なくなり、ユーザーは常に同じ広告を見ることになります。しかも、AdWords はリマーケティングをうまく扱えるような広告主ばかりではなく、操作に慣れない初心者のような方もたくさんおられます。AdWords は開始後のデフォルト設定が検索にもディスプレイネットワークにも配信されるような設定になっているので、リマーケティングのみが盛り上がれば盛り上がるほど、新規や初心者の広告主が成功体験を得られる可能性は低減していき、結果的にこのエコシステムから離れていってしまうということになります。そして広告主のバラエティは広がらず、ユーザーはリマーケティングをしている企業の広告ばかりを引き続き見ることになり、クリック率が減少し、CPCは増加し、以下略、という悪いスパイラルになってしまうかもしれません。

インターネット広告は本来とても楽しくフェアな市場です。広告主や媒体(メディア)それぞれの自己利益の追求が、プレイヤーごとのエコロジカルニッチを促進し、結果的に市場のバランスと拡大を担うはずだと思います。

リマーケティングという手法に罪はなく、ユーザーが「枯れ」ないようにオプティマイズを繰り返していくことが、結果的に広告主にとって、媒体(メディア)にとって、そしてユーザーにとって有益な世界につながっていくのではないでしょうか。



節度あるリマーケティングの3つの設定


さて、前置きが長くなりましたが、というわけなので、ここでは広告主側に立って、ユーザーを枯らせない、節度あるリマーケティングの設定とは何なのかをかんたんに(本当にかんたんに)まとめてみたいと思います。

リマーケティングの設定自体はSEM-LABOさんの解説が完璧なのでこちらをご参照いただくとして、ここでは、面倒でも大切な設定について前提1つ、設定3つにまとめてみたいと思います。


前提: リストの設計をする
リマーケティングの成功には、リマーケティングタグの設置位置と種類、その組み合わせ方法が大事です。リストの組み合わせをウェブサイトの構成や購買プロセス、広告の目的に沿わせるということになります。

例えば、携帯電話を売っているサイトで、アクセサリーの携帯ケースがセットで購入されているケースが多い場合、トップページの他に携帯電話のキャリアやメーカーのカテゴリトップごとにタグの種類を分け、メーカー(機種)すべてが同一ディレクトリ内にあるのであれば、そのディレクトリ以下には同じ種類のタグを全ページに仕込みます。もちろんカートの完了ページにも完了ページ用のタグを仕込みます。

そして、新機種があるメーカーはアクセサリも同時に併売したい場合は、AND 条件(新機種 AND アクセサリ :新機種とアクセサリどちらも含む)のユーザーに、NOT条件(新機種+アクセサリ NOT カート完了 : 新機種とアクセサリを含むものからカート完了を除く)という感じで設定します。

リストの粒度をどれくらい細かくすべきかは、ページビューの量と、商品カテゴリや点数によって変わります。ページビューが少なければ、リストを細かく分けるとリマーケティングが発動するまで時間がかかりますし、量が伴わないので努力の割に報われません。仮にページビューが多くても商品点数が多すぎるとリストの管理が煩雑になってしまうので、カテゴリごとに作るなどの気遣いが必要です。

さて、前提のリスト設計が整ったら、次は以下のステップです。

1: リストの保持期間を分ける
同じ位置のタグでも、リストの保持期間を分けることができます。商品によって購買の検討期間は違うと思いますが、どんな商材でも鉄は熱いうちに打った方がいいので、保持期間が短いものと長いものに分け、短いものはちゃんと出るように適度な入札価格を設定します。長いものは自然とクリック率も落ちるので、保持期間の短いリストよりはやや安めの単価を設定すると、効率やユーザー体験的にもいいと思います。保持期間の長い方のリストは、サーチファンネルやアクセス解析や自社の顧客データベースを利用して、何日くらいが丁度よいのか、大体のアタリをつけましょう。

2: 保持期間ごとにクリエイティブを分ける
次に、保持期間ごとに言いたいことを分けます。例えば、保持期間が短いものは猛烈アピールで、保持期間が長いものは色んな角度でアプローチする、みたいな感じです。テキストとバナーはもちろん、パターンも幾つか用意して、「同じ広告ばかりでウザイ感」をなるべく解消します。あと、最適化配信だとCTRがよい広告に配信比率が寄っていってしまうので、もし保持期間が長めであれば、均等配信にします。ランディングページが特別なものが用意できるのであれば、変えてもいいかもしれません。

3: フリークエンシーキャップをかける
最後に、必要に応じてフリークエンシーキャップをかけます。1と2ができていれば要らない気もしますが、リストの分母が多いとやった方がいいと思います。AdWords のフリークエンシーキャップは日や週単位、広告単位でキャップがかけられるので、これを利用します。



ここで迷うのが、結局フリークエンシーは何回にすべきか?というところです。まず、インプレッションとビューは違うということを念頭に置く必要があります。AdSenseで多いフォーマットはレクタングル、イコール記事中とか記事下に置かれる枠が多いことを考え、Above the hold(いわゆるファーストビュー) じゃないからインプレッションとビューには結構な差があるという前提で設定するとよいのではないでしょうか。5回で設定しても、実際のビューは1回みたいなこともあると思います(想像するしかありませんが)。なお、保持期間が長い方のリストは、短い方に比べて抑えめで配信するのが効率としてもいいと思います。その場合、フリークエンシーを広告本数で割った数を意識した方がいいですね。

余談ですが、最近ようやくリマーケティングのキャンペーンでもリーチとフリークエンシーのレポートが見れるようになりました。既にリマーケティングに取り組まれている方はぜひご覧になってみてください。やり方としては、リマーケティングのキャンペーンを選択して、「ディメンション」タブの左上、「表示:」のところをプルダウンすると出てきます。



ちなみに、フリークエンシーはグループごとに8回目までしか見れません。8回目以降は全部8回にまとめられています。データの傾向としては、徐々にCTRが下がっていく一方で、CVRはCTRほど下がっていない、みたいな場合が多いのではないでしょうか(違ってたらすみません)。当たり前ですが一定期間内のフリークエンシーはユーザーによって違うので、リマーケティングのようなオーディエンスターゲティングの商材は、キャップの設定はユーザーごとのアクションに本来結びつけるべき(クリエイティブを変えるとか)だと思うので、その意味でも、せめてリストの保持期間ごとにクリエイティブを変えるというトライはしておきたいものですね。

なお、個人的には iogous*mark のような第三者配信を通じてディスプレイネットワークに配信すれば、AdWords のようにざっくりとではなく、フリークエンシーを含めた広告のコントロールはもう少し面白いことができるのではないかと思っています。その時は、「フリークエンシーは何回が最適」というような議論はなくなっているかもしれません。


終わりに


だいぶ長くなってしまいましたが、以上になります。

リマーケティングは数字が良く見えがちなだけに、何となく現状維持の力学が働くことがあるかもしれません。 が、数字以上に大事なユーザーの信用は、いわゆるブランドイメージは取り戻すのが大変です。

普段から色々と考えて運用されている方からすれば釈迦に説法かもしれませんが、リマーケティングもまたSEMのセオリーに漏れず、トライアンドエラーが必要な手法です。ぜひぜひ実践をし、ブランドを毀損しないように効果の維持向上につとめて頂ければ幸いです!


※この記事は2011年10月に書かれたものです。

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